第9話
家に帰るとささやかながら私の誕生日パーティが催された。崩れたケーキと値引きシールの貼ってあるお惣菜、安いアルコールで誕生日パーティ。そんな気楽さだからか、初対面だというのに私たちは歳も性別も気にせず気兼ねなく話せた。
最近は誰かに気を許して話すなんてしていなかったからか、それとも安物のアルコールで酔ったのか、いつもより饒舌になる私。それを楽しそうに笑ってくれる彼。また、彼も自転車での旅は楽しいだけではないらしく、愚痴を沢山吐いていた。
「こんなこと話せるの、智さんだけですよう」
なんてお酒で緩みきって蕩けた表情で言うものだから、不覚にも私はドキリとしてしまった。
途中、互いの愚痴をぶつけ合う不幸自慢大会みたいになったけど、雰囲気が悪くなり始めたタイミングで隣の部屋からドンっと壁を叩かれてお終いになった。
「五月蝿くしすぎたみたいですね」
「そう、みたいですね」
いやに神妙な顔で言うものだから、なんだかおかしくなって私が吹き出して笑うと、彼も釣られて楽しそうに笑った。また、隣からドンっと先程より大きな音が鳴る。でも、それすら可笑しくてまた笑い合う。まるで、脳が蕩けてしまって馬鹿になったみたい。
こんなに楽しい誕生日は久しぶりだった。多分、何も考えずに今を楽しめていた子供の頃以来。出来ることなら、ずっとこんな時間が続けばいいのに。でも、休み明けにはすぐに仕事だよねえ。大人なんだから。そう考えると、胸が締め付けられて、涙が溢れてきた。
彼と一緒なら、ずっとこんな時間が続くのかしら? 机に突っ伏して眠ってしまった彼の寝顔を見ながら、そんな馬鹿なことを考えた。そして、朝日が昇り始める頃に、床でだらしなくまどろんで眠りについた。
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