第8話

 お酒が入っていたとはいえ勢いで旅に出るなんて私には出来ない。それが、若さなんだろうか? きっと私なら、お酒のせいで忘れたことにして、気不味いながらも友人が指摘しないでくれるのを願いながら、そのまま過ごすだろう。


「旅に出たはいいけどすぐに寂しくなっちゃうし、でも大口叩いて息巻いたのにすぐに帰るのもかっこ悪いし、友達に弱音なんか吐けるわけないし。そもそも、友だちと話してたら帰りたい気持ちになっちゃって、ホームシック気味になっちゃったっていうか……」


 口ごもりながら話す彼に、私は再び首を傾げる。美しく、楽しげな写真ばかり見せてくれていた彼の旅が、辛い一面もあったのは分かった。けど、その話と私がどういう関係があるのか掴めないでいる。


「ああ、えっと、つまりですね。智さんが俺の写真を見て喜んでくれるから、俺も旅を続けられたというか、智さんが他愛もない話をしてくれたから、心が休まったというか、そんな感じで、ありがとうございますっ」


 照れながら勢いで押し切るように言い切ってから、彼は深々と頭を下げた。

 要は私の些細な現実逃避や、聞くに堪えない愚痴は彼の旅のモチベーションとなっていたらしい。


 嬉しいことを言ってくれる人。


「そっか、こちらこそ、ありがと」


 ふっと笑いかけると、彼はさらに頬を真っ赤にして顔をそむけた。女の自分が言うのも何だけど、先程から彼の行動は小動物みたいでどこか可愛らしい。そんな目で彼を見ていることに気がつくと、私も恥ずかしくなって、頬が熱くなるのを感じた。


「け、ケーキだけじゃ物足りないから、ちょっと買い足しに行きましょうか」


 照れ隠しがバレないように、私は顔を背けながら立ち上がる。


「そ、そうですね。気が利かなくてすみません」


 言って、彼もそれに従った。


 スーパーで何本かのお酒と、いくつかのお惣菜を買った。誕生日パーティというには物寂しくてお粗末だけど、ケーキがあれば格好はつくだろう。


 さっき会ったばかりの彼と一緒に買物なんて、話題も思いつかなくて気不味いかもしれないなんて不安だったけれど、営業スマイルもなしに案外気兼ねなく話せた。


 傍から見たら私たちはどう見えるんだろう。もしかして、恋人同士に見えるんだろうか。なんて馬鹿な思い上がりをしてしまうくらいには、彼に気を許していた。これが、誕生日マジックか。


 けれど、すぐに彼との年齢差を思い出して冷静になる。七歳差。そんな風に見られたら、彼のほうが嫌がるだろう。

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