第7話

 訝しげに見つめていると、彼は何も言わずに大きなリュックをゴソゴソと漁り、白い箱を取り出してテーブルに置いた。


「誕生日、おめでとうございます」


 言いながら開いた箱の中から、元々は整った形をしていたであろう、一部がクシャッと崩れた真っ白な生クリームに苺やオレンジといった果物の乗ったホールケーキが現れた。


 不格好なケーキのせいか、彼は恥ずかしそうに俯いた。


 生クリームがいっぱい。胸焼けしそうだな。なんて考えながら、直前の彼の発言を思い返す。


 ……誕生日? 誰の?


 口から出しそうになる直前で、そういえば今日は私の誕生日か。と、何だか他人事のように思い出した。友人のいない私はここ数年、家族からすら祝ってもらっておらず、誕生日を意識することなんてなかったので忘れていた。


 ぼうっとケーキを眺めていると、彼は申し訳無さそうにそそくさとケーキを箱に仕舞い直そうとした。


「す、すみませんっ。こんな崩れたの嫌ですよね。ケーキ買い直してきますっ」


「ち、違うんです」


 慌てて立ち上がろうとする彼を引き止める。


「その、誕生日のお祝いなんて久しぶりで心の準備が出来てなかったというか、不意打ちの連続でどう反応すればいいのか混乱してるというか……。そもそも、わざわざ見ず知らずの尚寛さんにお祝いしてもらう理由が思いつかなくて」


 しどろもどろに言う私がおかしかったのか、彼は口元を緩めてくすりと微笑んだ。


「智さんに助けてもらったから。じゃあダメですか?」


 はて、何か彼を助けるようなことをしただろうか? 私は首を傾げる。彼とのメッセージでのやり取りを思い返すが、思い出されるのは自分の暗澹とした愚痴ばかりで、どちらかといえば自分が助けられてばかりいた。


 とぼけた顔をしていたのか、彼は吹き出してから、優しく微笑んだ。緊張のほぐれた可愛らしい笑み。


「俺、自転車で旅なんてしてるんですけど、どちらかといえば人見知りなんです。友達もそんなに多くないですし。旅に出たのだってノリというか、お酒の勢いっていうか、友達に言っちゃって引き返せなくなっちゃって」


 うつむき加減に手元を弄りながら話す彼の話を、私は少しばかり羨みながら聞いている。

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