第6話
♯♯♯
「本っ当に、ごめんなさいっ」
「こちらこそ、すみません。急に押しかけるなんて、怪しい人だって思われて当然です」
私の部屋に入ってから、もう五回はしているやり取り。私が謝罪をして頭を下げると、テーブルを挟んで向かいに座るnaoと名乗った彼は申し訳無さそうに頭を下げる。
連絡もなしに初対面の人間の家を訪ねてくるなんて非常識じゃない? 初対面なんだから、出会い頭に名乗るのが筋なんじゃないの? なんて彼への文句は浮かんでくるけど、それ以上に哀しさや苛立ちがあったからといって、初対面の人間を感情のままに殴ってしまいそうになった自分が恥ずかしい。
頭を下げながらも、彼の顔を確認する。薄暗い廊下とは違い、明かりの下で見るとnao――もとい本名は
メッセージアプリの画面で彼がnao本人だと確認した。メッセージのやり取りをしていた人間とは確認できたけど、まだ安全かどうか確認できていない人間を部屋に上げるのはどうかとも思ったけど。部屋の前で話すのを他の住人に見られるのも嫌なので、上がってもらうことにした。
自分の部屋に異性。しかもこんな若い子がいるなんてなんだか恥ずかしくなる。部屋に他人を上げる準備すらしていなかったのに。こんなことになるのなら、日頃からちゃんと掃除をするべきだったな。と衣類を仕舞ってある引き出しからちらりと覗くベージュ色の布を視界に入れながら、私は後悔した。
「でも、どうして……?」
「その……驚かせたくて……」
なぜだか、彼は気不味そうに口ごもった。
訪ねてくることはないだろうと、住所まで教えてしまっていた私も迂闊だった。けれど、旅の途中でわざわざ訪ねてきた目的が分からない。最悪、出会い頭に私が防犯ブザーやスタンガンなんかで反撃してあわや警察沙汰。なんて結果もあっただろうに。
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