第4話

 ぷしゅうと音を立てて電車のドアが開き、私はnaoに別れを告げて電車を降りる。後ろめたさから逃げるように駆け足気味に。でも、改札を出た辺りで、疲れには勝てずに足を止めた。


『智さんと話すのは楽しいです』か。生まれてこの方言われたことのない言葉に、思わず顔がにやけてしまう。


 それにしても、いくら愚痴すら受け入れてくれる話しやすい相手だからって、本名やらなにやらまで教えてしまったのは迂闊だったろうか。


 まあ、良いか。どうせネットワーク上だけの関係。実際に会うことなんて無いだろうし、会ったところでお互いの顔を知らないんだから、認知出来ないだろう。


 疲れていて考えたくない。私は厄介そうな思考を放棄して、晩御飯はどうしようかと目前に迫っている問題に目を向ける。


 結局、家に帰って料理をする元気も気力もなかったので、スーパーでお惣菜とレンジでチンするだけで食べられるご飯のパックを買って帰った。


♯♯♯


「……はあ」


 私はメッセージアプリを確認しながら、陰鬱なため息を吐いた。もう何度目の確認で、何度目のため息なのか分からない。けれど、少し時間を空けては気になってしまい、何度も確認してしまう。


 今日の昼休みに私は確かに『いま、どこにいますか?』とメッセージを送った。それはメッセージアプリに送信時間が表示されているため、私の思い違いではない。


 それなのに、退社時間になっても、自宅の最寄りの駅に降りても、一向にnaoからの返信がない。既読マークすら表示されない。こんなことは初めてで、どうして返信がないのかと焦ってしまう。


 たまたま、私からのメッセージが届いていることにnaoが気がついていないだけかもしれない。もしかしたら、何かメッセージアプリを確認できない理由があるのかもしれない。ただ単にネットワーク上の不具合かもしれない。


 現実的に考えればそれだけなのだが、私の頭の中は嫌な想像で埋め尽くされていく。黒々とした靄が心のなかで一杯になる。


 ――嫌われた?


 そんなの、きっかけが無いし、昨日の今日でそう簡単に人の気持ちが変わるはずない。それに、私と話すのが楽しいと言ってくれたじゃない。


 そう、宥めすかすけれど私の心は納得してくれない。

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