第7話 脇役の本領 Ⅲ
俺は何が起きたかが分からなかったが、腹部が熱く感じると共に液体がぽたぽたと落ちていくのが分かった。
(どうやら撃たれたらしい・・・)
こいつは俺の仕込んだ腹部装甲が剝がれるのを待っていたというのかね。
まったく、性格の悪いやつだな。
やるならとっくの昔に頭を撃ち抜かれているからなぁ。
だが、俺は倒れない。
トマホークを持っていた側近は地面に転倒した時に気絶している。
たかが9ミリだ。
そして貫通しきっているからまだ副次的なダメージもないのだ。
銃撃での死因は多量出血ではない。
撃たれたという事実に対してのショック死が一番多く、多量出血は意外と死なない。
「チェックメイト・・・」
俺はささやかな勝利宣言を呟いた。
「は?」
向こうは意味が分かっていないようだったが、俺は賭けに勝った。
そう、向こうに銃を抜かさせて撃たせることだ。
当然、銃声は辺りに響き渡ってしまい、付近の住人は通報する。
これでいやでも場所は分かるし、警察も動きやすくなる。
サイレンサーを持っている奴は少ないからな。
「警察だ!!動くな!!!」
仕掛けは俺がここに来る前に呼んだ警察の到着だ。
「クソッ!!」
奴は容赦なく警察に向かって引き金を引いて、軽い銃撃戦になった。
俺は奴の注意がこっちに向いていないことを良いことに左手の鉄パイプを握り直して静かに背後を取れるように近づいた。
警官が二人しかおらず、隠れる障害物の少ないせいで決着は奴の勝ちになったが、俺の完全勝利は確定した。
俺が近づいていることを察知して振り向くが握れない右手に短い鉄パイプを銃撃戦で注意が逸れている間にテープで固定して、奴の左肩を突いて姿勢をさらに不安定にさせて銃口が俺の頭から外れる。
発砲で耳が一時的に使い物にならないが、間合いを詰めることで左手の鉄パイプで顎を殴ったが、俺の鳩尾に蹴りが入る。
思ったより強かったのか俺は少し飛ばされて吐きそうになった。
そして、奴が俺に銃を向けていた。
これは回避も間に合わないと諦めて地面に転がることにしたがここで運が良かったのか悪かったのか変なものに引っかかって予定より早く身体が傾く。
銃声がまた鳴り響いたが、まだ意識ははっきりしている。
だが、俺の左肩に命中し、身体が地面に当たる。
割と不味い状況になってしまった。
右よりはマシだろうが動きは確実に遅くなったし、、奴もまだ健在だ。
(まあ、いい時間稼ぎになったな)と思いながら、まだ酷い耳鳴りの間に聞こえる微かな奴の罵声というか恨み声が聞こえる。
身体が痛いのにまだ思考が冷静だった。
脇役にしては俺頑張った気がするし、もうラブコメとかいう呪いからやった解放されると考えたらもう少しだけ元気が出て、俺は再び立ち上ろうとした。
激しい痛みが身体中を蝕み、俺の気力を削ごうとしてくる。
しかし、まだ終われない。
奴を確実に気絶させるか警察が到着して彼女たちを保護するまでは死ねない。
(俺は人間を止めるぞーーー!!!)
生まれたての小鹿のようになんとか立ち上がって、手にまだ鉄棒があることを確認すして顎を殴られた痛みに悶える奴に近づいた。
鉄棒パイプの重みを支えれずに地面に引きずってその音が工場内に響く。
また、銃声が鳴った。
だが、まともに狙えていないおかげで俺の腹部に再度命中してそれが最後の一発になったようで拳銃のスライドが開放状態になり、弾切れを知らせた。
左手のパイプを奴の足に投げて転ばすと地面に伏す。
血が足りなくなっているせいか、視界が朦朧し始めていて手足も痺れてきた。
身体に力も入らない。
あとちょっとで終わるだ・・・
叫びでもしないと力が入らない。
「エクスカリバーーーーーーーー!!!!!」
そう叫んで右手の鉄パイプを思い切り振り落として胸部に当てると奴は「うっ!?」とだけ言って静かになった。
まだ俺は辛うじて立っていたが、あちこちから出血している。
「ゴホッ!ガハッ!!」
吐血もして本格的に俺が終わりを迎えていた。
ぴちゃぴちゃと吐血した血がコンクリートの地面に落ち、よく聞けばパトカーのサイレンが聞こえる。
ボーガンで撃たれた右足を引きずりながらなんとかマットのところに行くとまだスヤスヤと眠っていた。
ある意味凄惨な現場を見ていなくて良かった。
二人に血がかからないように少し離れて左手の鉄パイプを離し、右手に固定していたのも外して少し遠くに置く。
俺がさも素手で一方的にやられた被害者のように振る舞うためにね。
まだ暖かいはずなのに寒くなってきた。
もう目の前も見えてなくなり始めており、身体も自由に動かせなくなる。
「警察だ!!」
(ああ、勝ったぞ)
俺は膝から崩れた。
「おい、しっかりしろ!おい!救急車を呼べ!!」
「ま、マットにし、縛られている二人・・・の保護を・・・」
「分かったから、もう喋るな!死ぬぞ!」
俺の意識はここで暗転して終わった・・・
続く・・・?
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