第6話 脇役の本領 Ⅱ
体は
血潮は鉄で心は硝子
幾たびの
ただ一度の敗けもなく、
ただ一度の勝ちもない
担い手は孤独な一人。
拳の丘で鉄を鍛つ
ならば、我が生涯に意味は無用
この身体は、
無限の拳で出来ていた・・・
『無事に物語は進行させる』
『主人公とヒロイン達も守る』
「両方」やらなくてはならないのが「脇役」のつらいところだ
覚悟はいいか・・・俺はできていない
だが、胸糞展開は断る
俺の名は出川裕太郎・・・
通りすがりの脇役さ
俺の前には何十人もの半グレ達が集まっていた。
増援がえらく早いが、俺が望んでいい感じの騒ぎだ。
手にはナイフ、鉄パイプとスレッジハンマーだけじゃ飽き足らず、天井クレーンの点検歩廊にはボーガンを構えようとしている奴までいる。
俺はポケットに忍ばせていた鎮痛剤をありったけ嚙み砕き、スリングショットでこの場でのリーダー格のような奴の頭部に小石を当てた。
それが戦いのゴングとなったのか、連中は一斉にこっちに走ってきたがスリングショットで数をある程度減らして増援が来るまでの間に倒して見張りから奪ったナイフを足に投げて二人を動けなくさせる。
そして乱戦が始まるが、向こう馬鹿みたいに一気に突撃したり一斉に攻撃はしない。
だから、間合いを敢えて詰めて気迫で怯ませて姿勢の隙を突いて確実に無力化するために頭部を的確にぶん殴って、次に奴に向かって適度に後退した指一本もマットの上で眠っている二人に触れさせないようにする。
後退時に後ろからなにものかが来ていることを感じて少し振り向くとナイフが迫っていた。
咄嗟に左腕の前腕で受け流して顎を殴る。
腕には細くて薄い鉄板で防護しているおかげ、当たった衝撃があるものの切り傷はない。
5~6人を倒したところで金属音がすると俺に左肩の付け根に灼熱と猛烈な痛みが襲った。
「ウッ!!!!」
クソ!!!スペツナズ・ナイフを使いやがったか!!
それで一瞬動きが鈍くなってしまい、連中がその隙を見逃すはずがなかった。
ボーガンの矢が放たれ、なんとか避けようと動いたが間に合わずに右足の太ももに命中する。
だが、脇役を舐めるんじゃねぇーーーーーーーーー!!!!!!!
「ウォー――――!!!!」
刺さっていたナイフを引き抜いてスペツナズ・ナイフを撃った奴の胸に投げて、次に矢も使って俺にスレッジハンマーを振り落とそうとしていた野郎の足に突き刺してさらに後退した。
「ハァハァハァ・・・」
血が身体を伝い、痛みも増幅してきいたが手当する暇はない。
だから、さらに鎮痛剤を口に入れて嚙み砕いた。
薬の苦味が広がって、錯覚で痛みがほんの少しだけマシになったが、気休めでしかない。
スリングショットでボーガン構えている奴の足に当てて、無力化する。
わずか数分のことだ。
スリングショットで更に数を減らして接近戦と後退を繰り返しているうちに増援を倒しきる頃に半グレのボス格と側近らしき者が近づいてきた。
「・・・殺れ」
側近の一人が尋常じゃない速さで接近してきて俺の鈍い動きでどうにか反応したが、間に合わずに防護用の仕込み鉄板に隙間をカランビットナイフで繋の紐を切り裂いて、鉄板が剝がれると同時に右腕の長母指屈筋を的確に切られた。
右腕はこれで使い物にならず、持っていた鉄パイプを落とした。
そして、がら空きになった腹部がやられようとしていたが、分厚い冊子と薄い鉄板によって弾かれて腸が出てくることはない。
弾かれて姿勢にわずかに歪みの隙に左手に持っていたナイフを横腹に突き刺す。
なんで刺しやすい前面にしなかったか?
それは向こうも俺と同じように仕込んでいると思ったら推測は当たったようだ。
弾かれた感触はなく、向こうは左の横腹を抑えながらスッと後ろに引いた。
口の中は鈍い鉄味をしていて、刺されはしなかったもの衝撃で少し嚙んでしまったせいで血が出ているらしい。
「・・・てめぇが数年前に消えた『薔薇の竜』か」
俺は答えれないし、連中に喋る気もない。
「・・・チッ」
今で始まりから10分ちょっとか・・・まだここでくたばる訳にはいかない。
そう思っているともう一人の側近らしい奴がゆっくりと俺に近づいてきて、バトルアックス、いや、トマホークを出してきた。
こいつも投げないだろうな。
『投げたもの二度使えない』もんだからであり、二人の武器はかなり強い拘りをもって選んでいると俺は踏んでいる。
投げるならもっと簡素なものにする。
俺はな・・・
(今ならさっきよりはマシな戦い方はできる)
予想通り投げずに接近してきて、右腕を失うつもりで頭部を守るようにガードすると向こうはニヤリと笑ってトマホークを振り上げた瞬間に左手の鉄パイプで奴の左手のトマホークを叩いて口の中に溜まっていた血を毒霧のように目に吹きかけて右腕を曲げて肘で鳩尾に激突させる。
予想外のことだったのからか目に俺の血が入り、右手のトマホークを振り落とすように手放した。
だが、鳩尾に入った衝撃で怯んで転倒する。
奴の落としたトマホークは俺の左の横腹を通って地面に落ちたが、運悪く仕込みの腹部鉄板と厚い冊子を繋いでいた紐と針金が切れてしまった。
鉄板と冊子が落ちる。
その刹那、銃声が響いて薬莢が落ちるような音がした・・・
続く・・・
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