第5話
母さんの
亡くなってから俺は毎夜欠かさず、母さんに
生前、カメラが苦手だった母さん。当然本人が写っている写真もほとんど残っていなく、
こんなことだったら、もっと母さんと写真を撮っておけば良かったと、後悔した。
「――末期の
ロコに背を向けたまま、当時のことを説明し始める。
「この人、亡くなる直前まで、俺のこと心配してたんだぜ? ......本当、いつも人の心配ばかりしてさ............それだから自分の身体の異変に気づかなかいんだよ......」
本当は気づいていたんだと思う。
俺に心配をかけたくない為に、母さんは自分の身体に限界が来るまで、
それくらい分かる。家族なのだから......。
「――母さん。昔、一緒に住んでいた柴犬のロコが会いに来てくれたよ。しかも人間の姿で。信じられないだろう? 俺も最初は信じられなかった......でも、間違いなくこいつはあのロコだよ」
写真の母さんに話しかける。
ロコはその様子を、静かに、黙って見守っている。
「俺はまだ一人じゃない。だから、安心して天国で幸せに暮らしてくれよ......」
「......ぐずっ! ......ぐずんっ!」
すると後ろから、鼻水を何度もすするような音が聴こえてきた。
気になって目を開け振り向くと、俺の後ろにいたロコは、子供のように泣きじゃくっていた。
ぽろぽろ涙を
釣られて涙が零れそうになるのをなんとか
「泣いてくれてありがとうな。きっと母さんも喜んでくれてるさ。......まぁ、お前の今のその可愛い姿に、驚きもしているだろうがな」
「......それ、今言うセリフ?」
「......確かに」
数秒の沈黙後、軽く吹き出して笑う二人。
母さんの一件があってから、俺は『神様』という存在を、一方的に酷く
かけがえのない俺の唯一の『家族』を奪った、ケチでしみったれた奴のことを。
――でも、今回だけは感謝してやる。ありがたく思え。この野郎。
「心配性だな〜。家近いから別に平気だって」
「いいや。駄目だ。時間も時間だし、なんかあったらどうすんだよ?」
「大丈夫だって。いざという時は、お姉ちゃん自慢のダッシュで逃げるから。あ、噛みつきでもいいかな☆」
「お〜怖っ!」
夜も深いこともあり、外はしんと静まり返っている。
疲労感が
時間帯が時間帯なだけに、俺と制服姿のロコがやましい関係に見えないかちょっと心配だったが、なんとか大丈夫そうだ。
話したいことがまだまだ沢山あったが、夜も
家は近所だから一人で帰れるとは言っていたが、こんな時間に女子高生を一人で出歩かせるのは、決していい気分はしない。
本音を言えば、まだロコと話しをしたかったのもある。
それに彼女が今、どんな家に住んでいるのか興味もあるしな。
そんな
「仕事が忙しいのは分かるけど、ちゃんと野菜も摂らないとダメだよ? それに今日みたいなおかずが揚げ物だけっていうのも、身体に良くないからね」
「それは分かってるんだけどなぁ。ついやっちまう」
「.........だったらさ、剣真の夕飯、毎日作りに行ってあげようか?」
「――え?」
一瞬、何を言われたのか理解するのに数秒要した。
今、毎日夕飯を作りに来てくれると言いました? 目の前のギャルJK姿のロコが!?
「いやいやいや! そいつは嬉しいけど、いくらなんでもそこまでしてもらうわけには――」
「私は全然構わないよ。ていうか私、普段は一人で夕飯食べることが多いから。一人分作ろうが二人分作ろうが大して変わらないし」
「そうなのか?」
「そうだよ。それに、せっかく超久しぶりに剣真と再会できたんだから、まだまだ
月明かりもあってか、俺の瞳にはその姿が妙に色っぽく
まさかロコも同じ気持ちだったとはな。
なら無理に断る理由もない......。
「――分かった。なら
「了解です!」
敬礼ポーズをとるロコに、俺は軽く笑みが零れ、吹いた。
「それよりこんな時間だけど、親御さん本当に心配してないのか?」
「大丈夫大丈夫! ウチの親、
「上手いこと言うな」
「でしょ☆」
ドヤ顔で手を後ろに組んで歩くロコ。
いくら放任主義......放し飼いとはいえ、ここまで帰りが遅いと
少なくとも、俺に女子高生の娘がいたら、こんな時間に外を出歩かせたりはしない。
とはいえ、何かいろいろと家庭の事情があるのだろう。それ以上ロコの今の両親のことを訊くのをやめた。
「――あ、この辺りでいいよ! ウチ、すぐそこだし!」
そう言ってロコは俺の横から前に飛び出していった。
その様子を見て、柴犬だった時のロコを思い出した。
ロコの奴、散歩中に急にダッシュすることよくあったなぁ......。
「いや、でも――」
「じゃあまたね!」
俺の言葉を
人間になっても脚の速さは変わらずなようで。
「――ごめん! そういえば今の名前を名乗ってなかったね! 私の今の名前は
ロコ......大志葉加那は、俺に一方的に今の名前を伝えると、またダッシュで路地に消えていった。
あわてんぼうなところも、どうやらあの頃と変わっていないらしい......。
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