9  Petit Japon Petit TOKYO

          9

 校門を抜け、寮のある方向の桜並木と反対方向に岩崖を壁とした舗装道路

の坂道があり、しばらく降ると、各街を巡回しているモノレールの駅がある。

モノレールに乗って、いくつかの谷や森を越えると、やがて田園が広がり、

ビニールハウスが増えてくる。そして、その農園風景が消えていく頃には、

だんだん車窓の建物が高くなっていく。プチジャポネとよばれるエリアの風景。そして「街」と呼んでいる大都圏のホットスポットに二人は来た。

 ちょっと洒落た赤レンガ造の空間に入り、テラス席に座り、近付いて

来たギャルソンに注文を伝え、二人はなにかを話し始めた。

「で。だれが本命なのさ?!」

「なっ! いきなり何ですか?」

突然の言葉に赤面する内郷だが、その様相をほくそ笑むようにカグラは内郷

を見ながら、話を続けた。教室では気がつかなかったが、カグラの背後から

生えてきてるかのような無数の布片が見えていた。身体に巻いてあるのとは別のだろう。背後の布端も楽しげに踊っているように、ゆれていた。

「だって、そーやろ!! ヘンな奴が多いとはいえ、みんなかわいいコ、綺麗なコ、美人サンばっかりやんっ!! そんな中にいてナンモ感じん男の子なんて、ただのヘタレやろー」

「みんな男としての僕でなく、僕の能力(ちから)に興味があるだけでは?」

「ま、わたしはそうやけど、他のコらはわからんさぁー」

「.....................」

「ちなみに、本命は千刈炎華嬢と踏んでるんやけど?」

「 ぶっ  」

その様相をからかうように、カグラの後方の布端が動く、

 不貞腐れたように、内郷は、いった。

「それより何ですか?背後で踊ってるのは?」

「やっぱ気になる?! ってーか、見えちょっとっとね。やっぱり。かわい

いやろ!!!」

「かわいいっていうか・・・」

「ま、コレがあのガッコを受験した理由やし、受かった一因やろな」 

涼しい顔してカグラは、いった、



 そんなテラス席を遠くに見、すこし離れた死角になりそうな店内でささやき声が漏れる。「ナニを話してるんでしょうね?」

「デートやろか!?」

「っていうか、なんであなた達までいんのよ!? 涼窩だけでなく、なんで千刈サンまでいるのよ!?」

「ソフィーは、さすが元A組主席だけあって、すぐに終わってしまってぇ、時間を持て余して散歩してたら、モノレールに乗ろうとするヒロさんを見かけてぇ、どこに連れていかれるのかとか、ね!」

「ね!じゃないわよ!!」

「なんかおかしいコト言ってっか?」

惚けたような不思議そうな表情を炎華は怨那に向けた。

 すこし怨那が怯んだその瞬間、涼窩が声を上げた。

「いつの間にかおらんくなってるで!」

「えっ!?」

視線が一斉に内郷たちのいた席の所に向く。たしかに誰もいない。だが、すぐさま涼窩が声を上げると、指先に二人の姿が天井のガラス越しに見えた。

 見えた認識を感じる間もなく、怨那と炎華は席を立ち上がっていて、いち早く炎華はもう店を出ていた。

「あっ。二人共早っ!」

 涼窩がそう言って、あわてて2人を追う中、怨那は苦虫を潰したような思いでいた。

(ちょっ、ちょっと! なんでそんなに早いのよ?!)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る