8  Real and Truth

            8


 翌日。麗焔は欠席だった。女性教師からも何も説明はない。全寮制なのだ

から、昨日の夕べから寮に帰ってこず、今日欠席の麗焔について何か言って

も良さそうなのだが、やはり炎華があのとき話していたコトが問題だったの

だろうか? いや、あの程度の情報なら学校側は知っているはず………。

「今日は、内郷は浪館と組んでくれ!」

「余りもんのあたしで堪忍な!」

「余りもんなんて、そんなコト………。それに、いずれ皆やるわけだし」

 隣の席からのぞきこむようにカグラは言うと、てへっと笑った。それに

対し内郷は、隣の席だったコトにビックリしたのを隠すように言葉を並べた。

(あー、炎華に話しかけてたコか……。まさか隣の席だったとは)

 ちょっと小柄だがロリとは違う。腰まである長い髪を白い布と絡ませて

結っていて、腕や足もサラシで巻いたような風で、細く締まっているようで

肉感を感じさせる身体付き。

「へー。そういう反応すっとね。ちなみに、なんばしよっかわかるぅ?」

 その言葉に内郷は急に声を抑えて、カグラに囁いた。

「それがよくわかんないんだよねー。実は。」

「あー。やっぱ」

「えっ!? やっぱりって、どういうことですか??」

「自分で気付いとらんと? 技能試験はいつも手ば抜いてマトモにやらんけ

ど、授業中とか休み時間に時々この教室の空間を歪ませてるよね?」

「えっ!? 空間って!?」

「よく机の上に消しゴム置いて、しよるやっか」

 消しゴムというワードを耳にして赤面する内郷。

「見てたんですか?!」

「隣の席だからなぁ」

「ショボいでしょ?」

 少しイジケたように丸くなる内郷に対して、カグラは立ち上がった。

「なんば言うとっと? あんだけ空間が動いとんのに誰も気付いてないとか

言っとっちゃなかやろねぇー?!」

「 えっ!? 」

 内郷は疑問の声を上げた。そして、すぐさま否定した。

「いやいや。そんなわけないですよ………」

言葉途中、内郷はクラス中の視線が集まり、各自それぞれに内郷の言葉に

大きな驚きや疑問を呈すような態度やポーズ、仕草をみせているのに、よう

やく気が付いた。

「な、な、なっ、ナニ言ってるんですかー! 怨那もですか?!」

「ごっめーんっっ。知ってほしくないみたいだったから、ずっと知らない

フリはしてたんだけどぉー。言ってほしかったの?」

「いや………」

一瞬、戸惑ったように内郷は否定した。


「だっからぁー」

カグラの言葉と共に内郷の人差し指を中心にシルクのような白い布紐が絡ん

できた。

 カグラは言った。

「あの雲を指差して !前に突き出すように!!」

 内郷はカグラに言われるがまま窓の外に腕を出し、人差し指を言われた雲

に向けた。すると、布紐がしまる。そしてさらに、指示通り指先に力を込め

た瞬間、布紐が腕と一体化して、指の根本が締まった。

『  シュオンッ      』

 天空の雲がトルコアイスのように見えたのは一瞬。気がつけば雲は霧散していた。同時に、一瞬キツく内郷の腕を締め付けていた白い布紐はあっという間に緩まり、内郷の視界から消えていた。

 内郷は自分の指を見て、不思議そうな表情をし、ただ、ただ驚いていた。

「なっ、な、な、なにをしたんですか?!」

「なんも。うちはちょっと手伝っただけさぁ。なぁ、先生!今日の試験、うちらコレでよかっちゃなかね?!」

女性教師に言葉途中で視線を向け、声のトーンと大きさをかえて、いった。女性教師は、悔しさとも、苛立ちとも取れる表情を隠しもせず、いった。

「そうね。内郷と浪館は今日はもう帰っていいわ!」

 すこしザワつく室内。けれども、女性教師の声が一喝する。

「残りの人たちは今日も移動だ!!」


         

実習に他のクラスメイト達のいなくなった教室に内郷とカグラはまだいた。

「せっかく早引け出来るんやし、うちらも行こっ!街でなんか食べてこーで!」

「ちょっと待って下さいよ!」

そそくさと教室を出ようとするカグラを内郷は呼び止めた。

「先刻のはなんなんですか!? 僕にあんな能力(ちから)があるんだったら、なんで今まで発動してないんですか?!」

「そりゃあ、能力(ちから)を上手く使えるよー調整したのは、うちやっけんなぁ。ちなみに、ウチのクラスのコ達はみんなわかってなかコ、おらんと思うわ。その上で、上手にその能力を使えるモノに出来るかが今回の課題やと思う」

「それじゃ僕自身の評価はどうなるんですか!?」

「2人1組という条件が前提条件にある以上、2人で取った成績がそのまんま反映されっちゃなかね」

「僕はほとんどナニもしてないのに…………」

「なんば言っとっとね! 元はアンタの能力(ちから)さばってん、タナからぼた餅気分で!!」

「棚から牡丹餅って、なんか複雑な気持ちです……」

神妙な面持ちを見せる内郷。

 そんな内郷の背中を押してカグラは、いった。

「そいよか早よ行こうー!!」






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