2 Academy attached to


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  机の上に置いてある消しゴムに人差し指を伸ばした手が近づく。あと

もうすぐで届きそうな距離に近づいた時、消しゴムはなにかに弾かれ

たように前方に移動した。

 世間的には念動力とかESPとかいわれるものなのだが、なにせ

しょぼい!なので、彼・内郷は誰にもそのコトを話すことはしない。

幼稚園時代、小学校低学年の頃、最初の頃は関心を持ってヒーロー

のように持ち上げてくれるが、やがてすぐに飽き、しょぼいが故に

見下したり、バカにしたり‥‥‥。相手にしてくれないとか、スル

ーしてくるのはいい方だ。だから、地元のやつらはもちろん、知り

合いもいないであろうこの付属高校を進学先に選んだ。入学式の日、

折角の運命の出会いを台無しにしたのも、とっさにこの能力(ちか

ら)が発動したせいだ。

『気付いてないよな……』 

  そう呟きながら、不安げな表情を浮かべた。

 内郷が窓の外に視線を向ける。スポーツ推薦などがあるわけで

もなく、別段特にスポーツに運動に力を入れている学校ではない

のに無駄に広大で整備されたトラックにグラウンド。別個にサッ

カー場やラグビー場、テニスのクレーコート、土のコート、芝の

コート。高台に屋外プールに、スキーのジャンプ台、挙句に乗馬

施設やクロスカントリー、ゴルフ場まであるらしい。さらには、

誰が使うんだかわからない巨大なアリーナ。別個に武道場、弓道

場、アイスリンク、などなど。まあ、空いている施設は大学や関

連企業で使用されているらしい。そのグラウンドや杜の向こうに

街が広がり、さらに街の向こうに海があるようで、木漏れ日のよ

うな光が遠くに見える。

 

「内郷くぅーん」

 肩までのショートカットの女子が声をかけてきた。わざわざ

グループの輪を離れて。

 彼女の名前は石巻怨那(いしのまき えな)。

 このクラスは男子15人女子15人の30人のクラスで、3割は

外国人だ。基本、授業は日本語をベースに行われる為、試験

結果や相談により短期日本語習得プログラムを組まれたり、

集中ゼミクラスに缶詰めにされたりする。それは英語や第二

外国語も同様だ。国籍も人種も母国語がなに語であろうと関

係ない。ただ、順当にこなしていけば、普通の未来が保障さ

れている、かも、なのだから。

 

一年のカリキュラムは1stステージと2ndステージがあ

り、それがさらに前期と後期に分けられ、中間試験と期末試

験がある。そして、結果いかんで昇級や降級、飛び級もある。

つまりは、一ヵ月半ごとに運命の裁定が下されるわけだ。試

験はペーパーテストとは限らない。なにせ毎週ペーパーテス

トは普通にあるのだから。

「まーだ前期の中間試験が終わっただけなのに、このクラス、

だいぶ人数が減っちゃったねえ‥‥‥」

「そりゃそうでしょ。試験でいい結果が出れば上のクラスに

昇級でき、出なかったヤツらは降格だ! A組だったなら、そ

こで優秀さや特別な才能が見出されれば、それだけで飛び級

も普通にあり。落ちるヤツらは特殊幼児舎まで降格されたヤ

ツもいるとか、いないとか‥‥‥」

「詳しいねえ。ウッチー」

肘で内郷の体をつくと、身体を起こして、いった。

「よくこの組(クラス)に残れたねえ。上にも下にも行かず」

「そー言うウッチーだって‥‥‥」

明るく返す怨那。

「俺は普通ですから! だいたい、Fって普通のFだろ?」

「いや。それならHutuでHでしょ」

「Hは補習組の特別クラスじゃなかったっけ?!」

「そうですよー」

 ちょっとむくれたような仕草を見せると、すぐに表情を

変え、言葉を続けた。

「ちなみに、内郷くん以外の男子は全滅だけどね」

「そういえば、男子の姿が見えませんね‥‥‥」

  改めて周りを見回す内郷。男子はいない。視線の先

には入学式の日に出会ったポニーテールの女の子・

千刈炎華(せんがりほのか)や、彼女に声をかけている

様相のすこし小柄な浪館カグラ、魔女の被るような帽子

を部屋の中なのに被ってるコ・フォレス=トワ.ダジュー

や、見た目こそ普通だが手に御幣を持っているコ・藤崎

紫音や、獣のような帽子を被っ?て顔を埋めて寝ている

ようなコ・平川ルイ、さっきまで怨那としゃべっていた

久須志聖南(くすしセナ)やシャルロット=ボムズやらいる

が、いずれも女子生徒だ。


「えっ?! いまさら!?」

驚いて見せる怨那。

 そして、悪戯っぽく笑みを浮かべて、いった。

「ちなみに、女子は上のクラスにいった綾、イブ、

雨魅(うみ)、慧萌(えも)、乙葉(おとは)、香李那、キム

チャンミン以外は残ったわよ。他の男子は、、E組に

昇級したシャルケ、D組に昇級した宮古クンと久慈ク

ン、B組まで上がったダニエル以外はみんな降格よ。

追試漬けや補習漬けのH組やJ組を越えて、ね」

「入試では、このF組に入れたのに??!」

「あー。ピッグス・ヴァサーとシエルさんがG組に

辛うじて留まったんだったわ」

「ダニエル、久慈、宮古、シャルケ、ピッグス、

シエルさん、僕の6人以外の9人は学年も下に・・・・・・

って、付属中学校に再入学みたいな感じになるんですかね?」

「気分的には編入って感じじゃない? ココって、幼小中高大

院総てがそのシステムなんだから。この組だって、直に優秀な

中学生や小学生、堕ちてきた大学生が編入してこないとは言えない」

「普通で良いのにな」

「普通が一番難しいんじゃない?  普通のクラスじゃないみたいだけどね」

「えっ‥‥‥」

  内郷が疑問を差し挟む前にガラっとドアが開き、怨那は手を振り、

もう自分の席に戻っていた。

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