第一章 Escape destination
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凍てつくような寒さがひと段落もふた段落もして、ぽかぽかする気温をいと
おしく思える中緯度地域の季節。薄くピンク色した花をたくさん枝につけて
いる樹々の並木をスーツとはまた違うが制服と呼ばれる服を着て、男性が歩
いていた。すこし急ぎ気味に。
「やぁべっ」
なんの変哲もない日常を望み、その日も日和の良いただの春。すこし時間
が迫っているので、周囲を歩いている制服に身を包んでいる人たちは急ぎ足
だ。もう一本の道と合流すると校門前の並木道にでる。まるで、どこぞの架
空の物語に出てきそうな設定、もとい、風景。そして、お約束の通りにもう
一本の道から駆け足な足音と急き切った呼吸音が近づいてくる。きっとパン
を口にくわえたショートカットの美少女と正面衝突という名の出会いが生れ
るはず……。
そう思ったら恥ずかしくなって、
『ないない』
両手を身体の前に出し、手首から先をはたくように、振った。その時。
「あっ」
もう一本の道から飛び出してきた少女が横をジャンプして、駆け抜けて
いった。
実際には、正面から足を振り上げてジャンプしてきた少女の空間ごとズレ
たような違和感を見せて、空間ごとすり抜けた感じではあったが。
残念ながらショートカットではなく、ポニーテール姿の健康的な体つき
の女の子。尻尾の髪を勇壮に靡かせて。これはこれでいい!目の前に現
れる一瞬宙で後ろに下がった感じだったが。そして更に、そこから浮か
び上がったように、みえた。
追い越してから、ちらっと後ろを振り返った様だが、止まることなく、
校門の方へと並木道を足早に消えていった。かくして運命の出会いも消
えていった。ああ。
しかし、いい。ココには折角、地縁も血縁や遠縁すら関係がないはず
のこの地の、こんな知る人ぞ知るこの学校を探し出し、入ることができ
たのだから。そんなわざわざ目立つ必要はない。目立つ必要はないとい
えば、遅刻して衆目にさらされ、目立ってしまうではないか!
(オレも急がなきゃ!)
地を蹴って、校舎の方角へ後を追うように駆け出した。
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