7 召喚獣の憂鬱(2)

 昼休みの教室、周りは四、五人で固まって弁当や、学食で昼食をとっている。

 僕は一年の時はいつも一人だったが、二年になって最近は三平太と二人で教室の隅で弁当を食べることが多い。


 僕は、三平太にも聞いてみた

「ストレイン・ワールドって知ってるか」

「……うう、わからない。き…きっと試験的ベーター配信じゃない」

 予想した答えだった。


 ヘッドギアをつけた実体型ゲームは、手足の不自由な人のために脳の発する信号でロボットの手足を動かす医療技術を応用し、バーチャル画像のアバターを動かすゲームに仕立てたのだ。


 さらに、味覚、感覚、肌触りなどの五感を、脳神経に送り込み、より実体験に近づけることもできるようになり、最近幾つかのゲームが完成され話題になっている。


 しかし、バリオタクの三平太が知らないとは……、

 ストレイン・ワールドの世界はあまりに細密で、他のゲームとのクオリティが桁違いだ。ほぼ実写、どちらが現実かわからなくなるほどの完成度なのに、全く話題に上がらないとは。

 どこぞの国のように、情報操作されているのではないかと、疑いたくなる。


 三平太にも体験させてやりたいが、生体認識の機能もあり、本人がログインしなければ起動すらしない。

 しかも、途中で替わることもできないので、体験すらさせてやれない。そこまで融通のきかないゲームがあるのか?


 さらに最も解せないのは、レイカに召喚される時はヘッドギアなどの触媒ディバイスがないのだ。

 ……これには、心当たりがないでもない。


 そんなことで、三平太にはわからないと思うので、この話はそこまでにして、アキバに行く約束と、次のフィギアに注文を付けた。


 ついでに、マントを羽織、ビキニ同然の戦闘服で黒髪の女剣士、剣姫レイカのコスチュームを走り書きし、そのドラフトを三平太にわたした。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 夜十一時……

 今夜も、僕は麗華に呼び出された。


 順調にスティータスを上げた僕は、あの砂漠のピラミッドのスコルピオンが出没する現場にいる。

 ちなみに僕のもつ斧はブースター付きにレベルアップした。

 斧を振るうとき、斧の横に付いたブースターが点火し。ヘッドスピードが加速され、打撃力が二倍になるのだ。


 僕とレイカは、スコルピオンの正面に並んで立つと、腕を組んだ余裕のレイカが相手を睨み、静かな口調で


「モフモフ、滅殺の斬撃を」


「グホ―!」

 ぼくは一声叫び、スコルピオンに向かう。


 真正面から駆け込み、斧を振りかぶると、光を発しブーーーーンと斧がうなりを上げる。

 両脇からサソリのハサミが迫ってきた。

 ミノタウロスは意外に俊敏だ。

 ハサミが届く直前にブレーキをかけ、迫るハサミをいなして、右からくるハサミに一撃をいれ、左のハサミを抑え込むと


 サソリ野郎の頭が、がら空きになる。


 そのとき、僕の背中をふみだいに、レイカが可憐にジャンプする。

 僕の頭上を超えて宙に舞うレイカは、ダガーを両手で逆手に持つと、スコルピオンの頭上にとびこみ、サソリ野郎の頭にグサリと突き刺した。


 毒霧をはく間もなく、一撃でスコルピオンは無散する。


 その間三秒!


 涼しい表情で立つレイカは、剣を振って鞘に納める。

 国をあげても敵わないモンスターをたった三秒とは、自分でも恐ろしくなる


「モフモフ、一段と腕を上げたね! このあとはご褒美ね」

 ここでのレイカは学校とは違い、厳しくもやさしい。


 ♨♨♨


 過酷な特訓のあと、ご褒美ということでレイカは、豪奢な湯殿でモフモフ状態の僕を連れて湯みをしてくれる。


 レイカの白くやかな肌にビーズのように水滴がはじけ、しなやかな曲線の裸体をひたたり落ちる。その甘美な裸婦画のような光景も、今の僕にはアシカか、トドが水を浴びているようにしか見えない……


 やっぱり人間でここに、来たーーーい!


 そのあと、レイカはモフモフの僕を石鹸でアワアワにしながら

「ねえ、モフモフ聞いてよ。最近、中川和也って男子が、私のことを変な目で見て怖いの。そいつ、キモくって、リアルでもあなたのように、私を守ってくれるナイトがいないかな」


  何を言っているのだ! 今まで何人の男を振ってきたんだ! 

 

 リアルでもナイトなど、腐るほど作れるだろ、と言ってやりたい。

 でも、思ってはいたが名指しでそんなふうに見られていたかと思うと、さすがに泣けてくる。


 それでも僕は、健気けなげにレイカのために戦った。

 どこかで、僕のことを気づいてもらえるのではないかと。

 強い流れの海流に、船が流されないようにするアンカーと一本の綱のような、このわずかなつながりを頼りに。


 さらに、レイカのことを親身に思っている僕のことを知ってくれたら、オタクに恋する美少女のアニメのような展開になることも、絶対ないとはいえない。


 言うまでもなく、隕石が当たるのと同じだが……


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 その後、さらにスティタスを上げた僕はレベルマックスになった。


 これ以上レベルがあがらないので、いよいよスワンヒル脱出のためのダンジョンに挑むことになった。

 それはスワンヒルの極北の雪原に、天に向かって屹立する塔


 難攻不落のダンジョン


通天回廊つうてんかいろう』という。

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