7 召喚獣の憂鬱(1)

 普段と変わらない、昼休みのまどろむ教室。

 相変わらず、学校での麗華は、僕が召喚獣だと分からないようだ。

 というか、眼中にない。

 言うまでもなく、お近づきになりたいのだが、とても近寄れる雰囲気ではない。


 そこに、隣のクラスからイケメン男子が入ってきた。

 この春から生徒会副会長になった早瀬だ。

 二人のアイドル系の腰巾着を引き連れ、最近よく麗華のところにくる。


 麗華は立ち上がり、早瀬の話を真剣な表情で聞き、時々笑顔を見せて何やら指示している。

 すでに四、五人の女生徒も集まり、麗華を中心に笑い声とともに、途切れないかろやかな会話、そこだけ美男美女のつどう少女漫画の表紙になりそうだ。

 麗華は、人間磁石かと言いたい。


 一方、僕のところに来たのは

 背の低い僕より、さらに小柄で中学生かと思うような三平太さんぺいた

「か…かずやー。こっ…このまえの魔法少女ルルルちゃん、み…見た。作画監督が代わって、ク…クオリティが、さがったよな。そ…それとさー、じじ…自作のフィギア、早く和也に見せたくて」

 そう言って、ピンクの布に包んだフィギュアを持って来た。少し吃音きつおんがあり、聞き取りにくいが、慣れたら全く問題ない。


 しかし、持ってきたフィギアは、やたらスカートが短く、胸の大きい女剣士。 他の女子に見られたら絶対、白い目でみられるが……もう遅い、それは僕の手の中にある。


 周囲の女生徒が「きもー」といった感じで僕たちを見ているのがわかる。

 あの麗華のリア充集団の早瀬も僕らの方を指差して、冷ややかに笑っている。麗華も笑っている。


「こんなもん、学校に持ってくるな! 」と言いたいが、僕のために作ってくれたことを思うと、本人に悪気はなく、周りの目を気にしながら寸評してやった(スワン・ヒルのレイカに、めちゃくちゃ重なり。個人的にはグッ・ジョブだが)。


 三平太は、場の雰囲気というものを察しない、きわめてマイペース、というより自分の世界に没頭するたちなのだ。


 仕草が、なよなよして女子っぽいところがあり、それが美少年なら、さまになるが……刈り上げで、きのこみたいな頭に、歯並びの悪い口、藪睨みの目で、正直僕も避けたいけど、これまで友達のいなかった僕にとっても、三平太にとっても、お互い唯一の親友なのだ。無下にはできない。


 ただ、僕はフィギアを見ながらつくづく三平太は、いい仕事をすると思った。こういった、チマチマする作業が好きで得意だ。裁縫もうまく、マフラーを編んだりしている。もし、ストレイン・ワールドに来たら、その耽溺たんできしたオタク知識とで、いい職人になるだろう。


 ついでに、本当についでなのだが、僕には一年下に妹がいる。


 そやつには学校では絶対に声をかけるな、と言われている。あんなのが、お兄さんだと思われたくないらしい。

 しかも、皮肉なことに、麗華が生徒会と掛け持ちで部長をしているECCクラブに入って、白鳥麗華を神様、女神様のように慕っている。

 僕が麗華と同じクラスなので、妹だとばれないようにかなり警戒しているようだ。

 妹萌えなんて、幻想の世界なのだ!


 ところで麗華と同じクラスというのはそれなりに接点がある、ある日先生に呼ばれ

「ついでにこれを白鳥に渡してくれ」

 生徒会の書類のようだ。


(これは、チャンスかも)

 僕はその足で麗華のところに行くと。麗華は机に座ってプリントに目をとおしていた。

 僕は麗華の前に立って

「あっ……あの……これ。先生から」

 緊張してろれつが回らない。三平太のようになっている


 麗華は僕を見ると微笑み、且つそっけなく

「ありがとう」

 僕は、ストレイン・ワ―ルドのことを切り出そうとしたが、言っていいものか迷い、突っ立ったままだ。

 すると、麗華は眉をよせ


「あのー、何か」

 早く立ちされ、といったオーラが溢れかえっている。僕は思い切って


「ストレイ……ワールドって知ってる」

 唐突に聞いてしまった。


 麗華は上目づかいになると、急に

「なにそれ、知らないわ! 」

 めずらしく、強い口調の麗華に周囲もおどろいたようで、近くにいた女子生徒が助けに入ってきた。


 僕と麗華の間に割り込むと

「白鳥さん、いきましょ」

 麗華はほっとした表情で女生徒と立ち上がり、すっと去っていく

 女子生徒は振り向きざま、僕を睨んだ感じだ。


「なんかあいつ、ストーカーみたいね、よく白鳥さんのこと見てるし。なんなら先生に言おうか」

「あいつら、無人島で二人だけになっても、付き合いたくない男子のベストスリーに名を連ねているんだよ」

 そんな、声がきこえた。

 僕は、背を丸めて立ち去った。


 こうなっては、もう何を言ってもだめだろう。


 嫌われた相手に、いくら尽くしても、みついでも、その相手が心変こころがわりするのは、道を歩いて地球に降ってきた隕石がその相手に当たる確率と、それを体を張って助けるくらいの命を駆けなければならないだろう。


 とはいえ、ストレイン・ワールドはせっかくあの白鳥麗華と近づけるチャンスでもあるのだ。やはり下心は抑えきれない。

 ただ、嫌われた人の心は、どんなに努力しても変わらないという前提で立ち回らないと……


 本当にストーカーになってしまう。

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