6 スコルピオン戦(2)
そこで、横に回って側面から、多少攻撃を受けるのを覚悟で強引に甲羅を叩くと、時々体を起こして襲いかかってくる。その時がチャンスで、相手の懐に飛び込んで腹を攻撃してHPを削っていくのだが。
まだ一撃も与えていない……
スコルピオンの腹の触手のような八本の足はおぞましく、そこに飛び込むのは、ものすごーーーく、勇気がいる。
やけくそ、投げやり、どうにでもなれーー!
そして、ボコられる。
ただ、僕だっていつまでもやられぱなしの、バカじゃない。
スコルピオンは八本の足と、さらに二本のハサミもあり、それら全部を一度に制御できるわけがない、昆虫にそこまでの脳みそがあるわけがない。
つまり、相手を意識して攻撃する足以外は、それに追随して適当に振り回しているだけのようだ。
僕は正面から向かうとみせて、左にフェイントをかけ、逆の右側を狙う。
その動きに翻弄されたスコルピオンの足の動きが、大雑把になる。
意識を集中している足かわかれば……
右下から弧を描いて一本の爪が迫る!
回し蹴りのような足の軌道、それだけが正確に向かってきて、他とはちがう
(見切れた!)
頭をさげると、ブーーン!!と、スズメバチが通り過ぎるような音と振動が頭上をかすめる。
そのとき、空振りした足の付け根に隙が!
間髪をいれず、その隙間に飛び込む。
そして、このチートサソリ野郎の腹に、初めて手が届く間合いに詰め寄れた。
これで一矢報える、汗と自分の血のりで滑りそうな斧を握りしめ
執念の迫撃!!
グサリと鈍い音がして、斧が足の付根に突き刺さり、スコルピオンの足の一本が取れて、後ろにのけぞった。
斧の刃先から体液のような緑の液体が飛散し、腐った生ゴミのような匂いがして吐き気がする。
後ろで腕を組んで傍観していたレイカが
「ほほぉー 」
といった表情で、前に乗り出して感心したようだ。
でも、僕は息も絶え絶え、二の太刀はない、これが限界だった。
すぐに、他の足にぶちのめされ、再び僕はレイカの前に吹き飛ばされた。
(くっそー! ここまでか……)
悔しい。
僕は仰向けに倒れ、レイカを見上げて涙目だ。
するとレイカは意外にも、屈んできて
「よく頑張ったね。あそこまでダメージを与えたのは、モフモフが初めてよ。あとで、たっぷり、ご褒美あげるからね」
そう言って、倒れた僕の頭をなでながら。
「スコルピオンは、ダメージをためると毒霧を出す。もうすぐ出すわ。毒霧は空気より重いから、気をつけてね」
そう言って立ち上がり、ゆっくりと、サソリの怪物に一人向かっていく。
僕はかすむ意識の中で呟いた(さあ、ご主人さまの登場だ! スコルピオンめ、これでおまえもおしまいだ。ざまあみろ! )
腰巾着の吐く台詞だ。
いよいよ、レイカの本気が見られるぞ!
瀕死にも関わらず、わくわくしていた。
が……!
意外にもレイカが手にしたのはロングソードではなく、短剣(ダガー)だった。
足を一本切り裂いたとはいえ、ほぼノーダメのスコルピオン。
(それを、ダガーで倒すつもりか! )
剣を片手でくるくると回し「よくも、私の可愛いモフモフちゃんをボコボコにしてくれたわねーー」そう言って、短剣をジャグリングするように、もて遊びながら余裕でスコルピオンに向かう。
でも、そんなことを言うなら、最初からレイカが加勢してくれたら……
レイカは少し腰をかがめるとダガーを逆手に持ち、巨大なスコルピオンに向かって躊躇せず走り込む。
なんか、カッコいいぞ!
次の瞬間、スコルピオンが紫の煙をまき散らし、周囲を覆った。
(毒霧! )
おい! 今のぼくは地面に倒れている。
毒霧は地面を這うので、倒れている僕はもろに吸い込んでしまう。
息が詰まる! 頭が痛い、(ゴンゾーが言っていたように、かなりつらい)
そのとき一瞬、煙の合間から、宙に舞うレイカの姿が見えたあと、僕は意識をうしなった。
◇
気が付くと、僕はモフモフの状態で、レイカの膝の上にいた。
スコルピオンは、仰向けで動かない。ついでに、横のサンドイッチも空だ。
「ごめん、ピラミッドの上に逃げてもらうの忘れてた」
当たり前だ! やっぱりレイカは、戦術には向いてないのか。というより、意外と大雑把なところがあるのかもしれない。
「でも、今日のモフモフはすごいよ、あのスコルピオンに、一太刀浴びせたのだから」
久しぶりに聞くレイカの褒め言葉、なんか嬉しいーーー
「無理させてごめんね、でもあなたに強くなってほしいの。私の、我儘だとわかっている。お願いだから、モフモフは逃げないでね……」
そう言って、僕を抱きしめた。
全く、飴と鞭だ
ところで、「逃げないで」って……逃げることができるのか……いや、考えてみれば、嫌なら逃げてもいいはずだ。そのうちHPも切れて元の世界に戻れる。
これまで、散々な目にあってきた。リアルなら鼻血もののご褒美でも、今の僕にはさほどでもない。
ただ、逃げる選択枝は考えたこともなかった。
それは、決まってる。僕には命より大事な下心があるのだ、決してMではない……と思う。
ところで少し気になることが
「モフモフ
ということは、僕以外にも召喚獣がいたのだろうか?
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