5.孟母三遷

 その後も天界エリアやスワン・ヒルのこと、さらにレイカのことを探したが、手がかりはない。王宮図書館にでも行けば何か探れるかもしれないが、レベルの低い僕には王宮への出入りなどできない。


 天界エリアは流星騎士団でも突破できない天啓てんけい山脈のさらに果てにある幻のエリアだ。しかも、関所で、かのチート魔獣、スコルピオンを倒さないといけない。

 でも考えれば、そこに到達しているレイカは只者ではない。彼女のステータスは、召喚獣の僕に見ることは出来ないが、無双レベルなのは間違いないだろう。


 なんとかレベルを上げて、行動範囲を広げて情報を得られないものか。

 ところでみんなは、どうやってレベルを上げているのだろう。攻略サイトもないので、全く進まない。

 無理して、ダンジョンに挑んでも門前払い状態だ。難問を解こうとして歯が立たず、どうしたら学力が上がるのかわからない、リアルの自分と同じだ。


 自分を高めるには、良い師、良い友人に出会い、そういう人が集まる場(環境)に自分を置かなければならない、孟母三遷もうぼさんせんだ! と、つくづく僕は思う。


 それには、情報、財力、あるいは持って産まれた家柄も必要だろう。いわゆる親ガチャ。


 僕にはそれら全てがなく、王都の下町でくすぶっている。周りはへっぽこプレイヤーばかり、たまに城外に出てスライムのニ三匹でも倒せば、その日の生活はできる。


 こうした現実逃避できるゲーム世界での、ぬるま湯生活に甘んじて、ゴンゾーのように飲んだくれたり。モブキャラの女の子にちょっかいを出す者も多く、賢いやつはいない。


 そんな僕も、人のことは言えない。

 なすすべがなく、公園をぶらぶらしていると、表通りでひずめの音が聞こえてきた。

 馬に乗って颯爽と闊歩する王宮直属の近衛兵、流星騎士団だ。


 先頭には王の右腕とも称される、壮年で威風堂々とした団長のシンド・ボルグ、その後ろには副団長の美人剣士で名高いミュール、ほか数人の騎馬隊の青年もイカスやつばかり。

 鮮やかな衣装を着飾り、町の人たちが羨望の瞳で見つめる、もはやアイドルだ。


 僕も見上げるだけ、人間の格が違うと言った方がいいのだろうか、近づくことさえはばかられる。

 あいつらも、僕と同じプレイヤーなのに。


 ………学校の僕と同じだ。



 ◇

 その夜もレイカに召喚された。


 そしていきなり、レイカの口からでたのは

「今日は、西の砂漠にいるサソリの化物。スコルピオンを狩りに行きましょう」


(えっ!……スコルピオンって………ええーー! )


 こともなげに言うレイカ。

 言うまでもなく、天啓山脈の関所を守るモンスター、王宮最強の騎士団が数十年かけても倒せない、ゲームバランス無視のチートだぞ!

 狩りってレベルじやないぞ、生還なき犬死に特攻だぞ!


 冷や汗ダラダラで固まっている僕に対し、レイカはピクニック気分で、お弁当のサンドイッチなどを準備している。

 妖精が気の毒そうに僕を見ていた。

 これは、半殺し……いや、絶対一回は死ぬパターンだ……



 そんな僕に構わずレイカは、翼のある白馬、ペガサスにまたがり、モフモフの僕を抱え、西の砂漠に向かって空を駆けていく。


 ちなみに、ペガサスは召喚獣ではなく、レイカが乗り物代わりに飼っている使役獣だ。言うまでもなく、超レア、幻の聖獣で、僕のエリア世界では王様ですら持っていない。



 眼下に広がるスワンヒルの森を見下ろしながら

「今回の敵は、今のあなたでは倒せないから、途中から私が援護するわ。そろそろ、連携技を試してもいいしね」


 確かにこれまで、僕は一人で戦わされていた。もうダメだといったときに、助けてくれる程度だ。

 それが、連携技とは……僕も進歩したのだろうか。なんかカッコいいぞ。


 ところで、これまで僕はレイカの本当の剣技を見たことがない。

 レイカはいつも、ロングソードとダガーナイフを下げているが、僕の前でロングソードを使ったことがないのだ。


 そこで今日の敵は、かの王宮最強の流星騎士団を全滅させるモンスターだ。

 いよいよ、レイカの剣技を見られるチャンスだろう。

 いかほどの能力があるのか。多分、僕は半殺しの目に合うだろうが、それなりの価値はある……そんなことを思うと、胸の奥がこそばゆくなり、なんだか興奮してくる。


 やばい! 最近レイカにいじめられるのが、快感になってきたのだろうか……


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