4.ストレイン・ワールド
『ストレイン・ワールド(迷走世界)』
最近普及したヘッドギアをつけて、仮想世界を実体感覚でフィールドをめぐる、VRMMOゲーム。
麗華にスマホで召喚される半年ほどまえ、同じように広告が入ってきて、おためし版ということで始めたのだった。
このゲームは課金要素がなく、純粋にプレィヤ―のスキル、やり込み度だけで進めていくもので。個人の自作ゲームということだが、クゥオリティは半端じゃない。
ヨーロッパの中世を思わせる街並みは、レンガや壁の凹凸、それらの汚れ具合まで詳細に表現され。背景の木の葉一枚のゆらぎ、人や動物の髪の毛一本から再現したグラフィックは現実世界と全く変わらない。
どころか、ここが現実世界かと勘違いするくらいだ。
ただし、個人制作のためか、
ということで、お試しと思って参加したものの、結構ハマってしまた。
◇ 十二番街の酒場にて
大衆食堂のような酒場の隅のテーブルで、向かいに座って僕に語りかけてきたのは、先の尖ったウイッチ・ハットを被り、装飾のない生木の魔法杖を持った、かけ出し魔導士の少女ミホロ。
「カズヤ、ヘッドギァや触媒なしでいきなり召喚されるなんて、信じられないね」
カズヤとは僕のプレィネイム
本名は中川
いちごジュースを飲みながら話すミホロ。
その横にはゴッツイ体で腰に斧を下げている、格闘士のゴンゾーが、エールをがぶ飲みしている。
ちなみに、リアルのミホロは不登校の中学生、ゴンゾーは三十代、結婚経験なしで無職…(いわゆるニート)のおじさんらしい。
僕達三人はパーティーを組んで一ヶ月ほどで、このエクアドル王国の都の下町で、しょぼいクエストをこなして暮らしている。
僕は真剣に話を聞いてくれているミホロに
「しかも召喚獣でだよ。いったい、どうなっているのか。このゲームをしている最中でも呼び出しを食らうんだ」
「だったら、今、この瞬間にも」
「ないとは言えないけど。最近、呼ばれるタイミングが読めてきたんだ、多分今は大丈夫」
この一ヶ月の間、毎日のように麗華に呼び出されているためか、最近呼び出されるパターンがわかってきた。今の麗華は塾か稽古ごとに行っている時間みたいで、呼ばれるのはたいてい、寝る直前のようだ。
「ところで、スワンヒルって聞いたことがあるだろ」
ミホロは少し考えながら
「幻のフィールド、このゲームの最終到達点ではないかと言われている天界の桃源郷のこと」
「実は、そこに呼ばれているんだ」
ミホロは丸い瞳をパチクリし、ゴンゾーは思わずグラスの手をとめた
僕は、二人を交互に見据えたあと
「それでさあ、王都精鋭の流星騎士団が、天界へ通じる
「まさか、スワンヒルに行くつもり! 」
呆れた表情のミホロに僕が頷くと、ゴンゾーも
「王都が主催している毎年恒例の行事のようなものだ。やめとけ、俺達のレベルでは、荷物運び程度しかできない。しかも毎回、全滅して聖堂で蘇生している。そのとき王都から出る報酬目当てで行くやつもいるが、かなり過酷なクエストだ」
ゴンゾーは長くこのゲームをつづけているようで、そういった事情も知っている。
一方、初心者のミホロは震えて、
「そうなの……。やめようよ、私まだレベル8だし」
ゴンゾーも続けて
「そうだな、流星騎士団はレベル60 以上のマスタークラス以上だ、それが二十人程度集まっても歯が立たない。関所の守護神のスコルピオンが最後に放つ毒霧で死ぬのは、かなり辛い」
確かに無謀だろう、僕もレベル15だ。
でも参加条件は二人以上のパーティなので、ミホロかゴンゾーが一緒でないと参加できない。とはいえ
「わかった。でも、今は何も手がかりがないんだ、無理は言わないけど、考えてくれないかな」
ミホロはすまなそうに俯き、ゴンゾーはエールをおかわりして、何も答えなかった。
◇
酒場を出ると夕暮れ、見上げると王宮の明かりが鮮やかだ。
通りは露店が立ち並び、毎日が祭りのように賑わっている。
しかし、マイナーなゲームなのに人が多い……いや多すぎる。ログイン数を見ると、この街だけでも数万人以上に登っていた。
普通なら超人気ゲームとして大々的に話題になるだろうに……
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