3.特 訓
翌日、麗華は普段通り、何事もないかのように登校している。
昨日の召喚はなんだったのだ。
しかも、かの白鳥麗華が学校では想像できない、露出の多い剣士姿で、あの胸でモフモフされたのだ。
そんなことを考え、ビキニ同然の露出の多いレイカを思い出して、でれ~っと教室での麗華を見ていると、何度か目があってしまい、怪訝な表情をされた。
……麗華様など、僕にとっては高峰の花だとわかっているさ。
彼女の周りには男女ともイカスやつばかりで、とても僕など近寄ることはできない。
オタクで、背が低く、成績も中の下、身の程は分かっているつもりだ。でも、あんな表情をされると、正直グサッとくる。
◇
その後、僕は頻繁に召喚されるようになる。
僕の召喚は有無を言わせないもので、スマホなどの触媒はなく、いきなり召喚されるので、食事の最中、トイレの中に入っていたときに呼ばれたこともある。
召喚のあとは、同じ時間、同じ場所に戻るため、リアルでは一瞬のことでだれも気づかない。
そして、召喚されたときの厳しい特訓は、地獄だった。トラの穴だった。
レイカと一緒に魔物の出る森や洞窟などに入り、出てくるモンスターを倒して僕のスティタスを上げる。
僕の経験値を優先に上げるため、僕を前衛にしてレイカが後衛になるのだが、そもそも愛玩獣のモフモフの紐のような手足の攻撃では、モンスターにはほとんど効かない。死ぬ寸前までボコボコにされ、何度も気絶した。
「あなたは、やれば出来る子よ。頑張るの」
最初は励ましてくれたが、次第に
「バカ、もう何やってるの! 」
最近は叱咤が多くなり、ボロボロの半殺し状態で神殿に戻ってくると、容赦ないレイカを妖精が見ていられないようで。
「剣姫、そこまでしなくても」
(ああー、神様、仏様、妖精様)僕は涙目で妖精を見つめると、さすがに言い過ぎたと思ったレイカは。
「……ごめんなさい。早く脱出したいばかりに、つい焦ってしまって。おわびに、汚れた体を拭いてあげるわ」
そうなると、悪いことばかりでもない。
たまに汚れた体を洗うため、こうして一緒にお風呂に入ってくれるのだ。
しかーし!
召喚獣の僕は人間ではない、ということは女性の裸体に全く興味がでない、興奮もしないのだ。目の前にいるレイカの全てを見ても、毛を丸刈りにされた羊を見ているのと同じ気分なのだ。
そこで、召喚から目覚めてすぐに、記憶の断片を全力で呼び戻して画像の再構築を試みても、やはりR16ゲームの限界、肝心なところはモザイクがかかっている……
◇
さらに特訓が続いたある日
なにやら、体に変化が……どことなく力が湧き上がる。
そんな僕を見た妖精とレイカは
「これは、もしかして」
「ええ、ステータスアップの形態変化かも」
より強い召喚獣への形態変化。
(やっとキター! モフモフ脱却だ)
自分でもワクワクする。
何になるのか、アレクサンダーやナイトみたいなカッコいい召喚獣だといいな。
レイカが、魔玉石をかざすと僕は变化した!
体が大きくなり、なんとなく人の姿で、声もだせそうだ。
「ブゥー 」
ええ!……もう一回
「ブブーー! ブブー!」
……まあ、こんなもんだろう。
期待するのがバカだった。
僕の第二形態は、猪八戒みたいな豚の妖獣。
魔法攻撃が主体で、魔法で敵を弱らせてレイカが止めを撃つなど、戦い方のバリエーションが増えたが、相変わらず僕は前衛だ。
◇
さらに特訓が続き、最終形態への变化のときがきた。
最後のチャンスだ。
ところで、形態変化は武闘系、魔法系に大きく分かれ、魔玉石の種類によって変わる。つまり、レイカの持っている魔玉石次第となるが、何の召喚獣が出るのかはわからないガチャ的な要素がある。
それで、この前は補助魔法の使える猪八戒になってしまったようだ。
その時のレイカの落胆した表情は今も忘れられない。
そして今回、レイカの選んだ魔玉石から出現した最終形態はミノタウロス。
レイカはそれなりに満足そうだが、もっと強い召喚獣はいくらでもいて、少し物足りなさもあるようだ。
一方、僕としては、もっと格好いい姿にしてほしかった……せめてケンタウロスとか。
◇
その後も、レベル上げのためにスワン・ヒルのフィル―ドを狩って回った。普段はHP消費の少ないモフモフ姿だが、強い敵が出ると、猪八戒やミノタウロスに変化して戦った。
そして僕は、悲しいことに召喚獣、レイカにとって必要のない時や、時間が経ってHPが無くなったあと消えてしまう。
僕が消えたあとも、レイカはスワンヒルにいるのだが、何をしているのだろうか……気になるが探ることはできない。
ちなみに、このエリアにはレイカと妖精以外にプレィヤーを見たことがない(イケメン勇者とかが、いないのには安堵している)。
ところで、レイカはなぜ、このスワン・ヒルに閉じ込められたのだろう。
さらに、リアルでは一瞬だが、レイカは何度もここに来て、ここの時間で二百年もの間、脱出するために戦っている。
アカウントを替えて、最初からやり直してもいいものを、なぜ、そこまでして脱出しようとしているのだろうか。
そもそも麗華のような優等生が、廃ゲーマーレベルでゲームをしていること自体、違和感がある。
その謎には、召喚獣になっているだけでは分からないかもしれない。僕は自分のアカウントでのフィールドで、さぐってみようと思った。
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