2.麗華の秘密

 見渡すと、バロック形式の高い天井、壁面は鮮やかなステンドグラスに、ルネッサンス調の壁画か描かれている、荘厳な神殿のようだ。

 すると、広間に反響する大きな声で


「ええー、これが私の召喚獣! ドラゴン・クラスが出ると思ったのに」


 悲鳴に近い女性の声、しかもどこかで聞いたことがある。

 声の主を見上げると、落胆した表情で目の前に立っているのは、金銀の装飾に飾られた剣を腰に下げ、赤いマントを羽織、スレンダーな体に胸あてと短いパンツだけで、細く白い腰、白い美脚を惜しげもなく露出した、いかにもRPGに出てくる女性剣士だ。


 しかもその剣士は、間違いなく、先程姿を消したレイカ(麗華)!


  ……ところで、僕は見上げている。


 僕の身長は低くて、悲しくもリアルの麗華より低い。しかし、今の僕の目線はレイカの膝あたり、いくらなんでも低すぎる……って!


 奥の鏡に写っている光景は、女剣士の前にモフモフ玉がひとつ


(ええーー! )


 どうやら、僕はモフモフ玉になったようだ。

 いわゆる、異世界に転移するシチュエーション。

(でも、こういう場合、前世の能力や記憶を持って生まれ変わったり、無双の勇者として召喚されたり、女神や強い聖獣の力を受け継いだり鍛えられたりして、女の子といい関係になるのが、定番じゃないのか! 序盤までだけど、このゲームの攻略の知識もあるぞ)


 さらに、モフモフ玉なので、話すことができない。うめくことしか出来ない僕は、申し訳程度につけられた紐のような手をバタつかせるだけ。


 そこに、手の平サイズほどの妖精が飛んできて、レイカに話かけている。


「レイカ姫、周知のとおり、召喚獣はHPがなくなると消えてしまいます。こうして具現化している状態でもHPを消費します。早くレベルアップをして、少しでも長く具現化できるよう、さらに攻撃力や防御力もあげていかないと……でも、苦労して召喚したのが、モフモフ玉とは……」

 最後は力なく話す妖精。


「モフモフ玉でも鍛えれば、きっと頼もしい戦力になります………」

 自分に言い聞かせるように語るレイカだが、その声に力はない。


 どうやら、もっと強い召喚獣を期待していたようだが、モフモフで落胆しているようだ……(すみませんねー)と、僕は思うだけで、言葉にはならない。


 ただ、あの優等生の麗華が、ヘソ出し、足出しの女騎士に扮している(コスプレ?)は圧巻だ。

 みんなが見たら腰抜かすだろう、そう思うと(プッ!)少し笑えるし、そんな姿を見られる僕は……超ラッキーかも。


 しかも、姫と呼ばれて、かくれファンタジーオタクなのだろうか。とにかく、お嬢様を地で行っている白鳥麗華がなぜに、こんなゲームにハマっているんだ……。

 そう思っていると、レイカは僕を両手で持ち上げ、胸に抱えた。 


「ああー、でもこの召喚獣、モフモフで気持ちいい! 」

 レイカはひしっと抱きかかえ、頬すりしてくる。


 こっ…これは役得ではないのか!

 レイカの胸に……


 妖精が呆れ顔で

「言うまでもないですが、二百年かけてためたマナで、やっと召喚に引っかか……成功したのです。大事に育ててください」

「そうですね。七十八人目でやっと召喚に引っかか……いえ成功したのです。なんとしても、このモフモフを鍛えて、スワン・ヒルを抜け出さないと」

 今「引っかかった」と、言おうとしたよなー、フィッシング詐欺だよなー。


 でも、二百年かけて召喚……

 しかも、ここは「スワン・ヒル」


 僕もこのゲームはやり込んでいて、噂に聞いたことがある。

 天界という極めた者にしか行けない世界があり、その最上階層の神座みくらにある隠し部屋ともいえる幻のエリア……実際にあるとは……僕は身震いした。


 そうしている間に、視線の下のHPゲージが0になり、フッと周囲の情景が消え、再び教室に戻っていた。

 ふと、生徒会室を見ると、麗華の姿が見えた。

 麗華はすぐに部屋を出て、少し肩を落として学校から帰る姿を、僕は遠目で追っていた。


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