第7章【月曜日を殺しにいこう】③

「康兄のこと忘れちゃうくらいの男になってよ! どんな卑怯な手を使ってもいいから……」

 あたしのこと、しあわせにしてみせてよ。

 ロミオは言った。世界の構造や意味がどうこうじゃなく、ロミオはただ純粋に、利己的にしあわせになりたいと選んだんだ。

 そうしたら、ぼくのやるべきことは単純だ。

 どんな卑怯な手を使ってでも、ロミオをしあわせにしてやるんだ。

「なに? 何か言いたいことあるなら言いなさいよ!」

「ん? ……そう、だな」

 ぼくはシーツの、ロミオの肩がある辺りに頭を預けた。

「お前のそういうとこ、嫌いじゃないよ」

「は? ちょ、マジ? バカじゃん? つか……」

 ぼくは照れくさくて、顔を上げられなかった。

「お前を、幸せにするよ。どんな手を使っても」

 顔を見ながらじゃまだ言えない。それでも、大人じゃない今しか、伝えられないことだから。

 ぼくはロミオの手を、そっと取った。

「隆?」

 そして、ボロボロになった手首のミサンガに指をかけ――引きちぎった。ロミオのしあわせを、手繰り寄せるように。

 ロミオは「ひきょうもの」と嬉しそうに呟き、ぼくの後頭部を掴み、布団に押し付けた。息苦しくって、少し気持ちがいい。

「あたしね、考えたの。大学はもう復帰できないし……」

 ……あ! そうだ、退学届が無効だったことを、まだきちんと伝えてなかったんだ!

「いや、あの」

 ロミオはぼくの言葉に聞く耳を持たず、続けた。

「さすがにあんたに全部任せるのは悪いなって、思ったの」

「いや、話聞けって」

「隆。ちょっと、どいて」

 ぼくは言われるがまま、ベッドの脇に立った。ロミオは、自ら勢いよく布団を引っぺがした。

「……アナグマぁ」

 一糸纏わぬ姿のロミオが、そこにはいた。朝日に照らされ、張りのある熱っぽい裸体が、なめらかに光った。

「どう?」

「……どうって。アナグマってなんだよ」

 ぼくは照れ隠しにブツブツ呟きながら、思わず顔を逸らした。

「意味なんかないわよ」

 その言い方は、無意味を単純に楽しむような雰囲気だった。

「毎日暇だし、露出狂しながら……たまに……そう、たまに、『やりまくりのハメまくり』でもいいわよってこと! 反応薄いわね!」

「ムチャクチャ言うなよ!」

「そこは『ぼくだけの露出狂になっておくれ』とか言うのよ!」

 そう。できればこの裸は、ぼくだけしか見られない、特別なものになればいいと思った。

 そしてもう少しだけ。今の大人でもない、子どもでもないロミオの熱を、感じていたい。

 いつか思い出せなくなるかもしれない、この熱を。

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