第5章【なぁ、ロミオ?】②
どうやって、大人になるのか。忌野が言っていた通り、大概は、社会に流されるままなる。だがそれだと、世の中の大人をモデルにし、自分で考えないまま、幼稚な想像の大人になってしまう。だから大人たちの多くは、子どもからしても、不自然で「まぬけ」に映る。自分がどういう大人になったのか、理解していないからだ。
昔好きだったクラスメイトに突然花束を届けたり、突然札幌に行くことができない、不自由な大人。どれだけ周りから必要とされ、自分が価値のある人間かを競いあわなければならず、それが全てになる。それは幼稚園児のおもちゃの取り合いの競争よりせせこましく、子どもじみていて――どれだけ、窮屈なんだろう。
「だからあたしはこのまま、子どものまま死にたいの!」
ぼくはずっと、ロミオにシンパシーを感じている。表面ではぶつかっていても、ずっと惹かれているはずなんだ。
なのにどうしてだろう。どうしてロミオに近づけないんだろう?
「どうせ死ぬ度胸もないんだろ!? 歌人にでも、好きになれよ!」
ロミオは一瞬怒りを忘れ、大きく目を見開いた。
「それ、どうして知ってるの!?」
「なんで、なりたいって言ってくれなかったんだよ! そんな気を遣われたってむしろ苦しいだけだ!」
ぼくにとってロミオはなんなのか、ずっと考えてきた。
でも、考えていなかったことがある。ロミオにとって、ぼくはなんなんだろう。
「おい!」
場違いな大声を上げたのは、忌野だった。
「お前ら、私の存在忘れてるだろ?」
「……いや、忘れたことにしてたんですよ」
今、
「死にたかったら勝手に死ね! お前はどうせ喚くだけで、何もできない。お前みたいなやつを昔見たことがあるんだよ!」
「忌野さん?」
「橋でも何でも、勝手に作れよバカやろぉぉ!」
橋? さっきから、やたらと引っ掛かってくる。忌野さんは兄貴のことを知っているのか?
……いや、今はそれどころじゃない。
「隆も、そう思う? あたし、死んだ方がいい?」
ロミオの声から温度さえも、消えた。何も答えることができなかった。「そんなことない」なんて、安っぽいことは言えなかった。
冷静に考えれば、ロミオの熱に感化され、ただムキになってしまっただけなのだけど、そのときは本気で思ったのだ。
もしかしたら、ロミオを今のまま死なせてやるのが、彼女のためなんじゃないだろうか、と。
なぁ、ロミオ?
実はぼくも、ちょっと死んでみたい気分なんだよ。
「なぁ、ロミオ?」
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