第7章【月曜日を殺しにいこう】①
〈2/8(Sun.) 29:11〉
目の奥が滲むような熱さを覚えていた。小気味いい鳥のさえずり。群青色の空の端っこが、明るんでいた。ぼくはぼんやりと立ちつくし、空を見上げていた。目にはまだ、肌色の饗宴が焼きついていた。
「あ、そういや、これ徹夜じゃん」
「え?」
時計は、朝の五時を指していた。体の芯は冷え切っているはずなのに、目の奥がとにかくカッカと熱かった。目を閉じると、塩分の強い涙が眼球を包むようだった。
「今日一日、一体なんだったんだ……」
ぼくは思わずこぼす。もはや、熱があるのかどうかもわからない。
いつもの別れ道。総合病院の脇の、自動販売機の前。自動販売機の唸りと、熱。名残惜しさなんか、一度も感じたことはなかった。会おうと思えばいつでも会えるんだから。なのに今日は、「じゃあな」の一言がなかなか出てこなかった。
「あんたとは、これでバイバイだね」
ロミオは言った。なんだか妙な言い回しだ。
「とは? どういうことだよ?」
「日曜のあんたとは、これで、サヨナラだから」
一瞬戸惑ったが、ぼくは思い出した。ロミオが言っていた「徹夜すると出会える、翌日の曜日の自分」のことだ。彼女の話が本当なら、今からぼくが家に帰ると「月曜日のぼく」が部屋にいて、今の、このぼくは――ぶっ殺される。
それは理であり、背くと、世界の仕組みが壊れてしまう。らしい。
「大丈夫。月曜のぼくがいたら、ぶっ殺してやるさ。……月曜が憂鬱ってのも『構造』の根底だもんな。むしろ、一緒に殺しにいこう」
「世界の仕組みが壊れちゃうのに?」
「壊れたって生きていけるよ。ここは大人のための世界で、ぼくはまだ大人じゃないから」とぼくは冗談めかして言った。
ぼくはまだ死ねない。たとえぼくの引き継ぎを「他の曜日のぼく」がやってくれるとしてもダメだ。
また、会いたいんだ。このどうしようもなく、ワガママで自分勝手な、女の子に。
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