第6章【ちょっと、露出狂に会いに】④
「……あたし多分、しばらく無職だと思う。塚本邦雄みたいになるには、結構時間がかかると思うから」
ロミオはぽつっとこぼした。
「ロミオ?」
「誤解しないでよ。康兄のことは関係なく、あたしが歌人になるって自分で決めたの!」
「……」
「……なに?」
「塚本邦雄ってさ……どんな、歌を詠むの?」
ぼくは、初めてそれを訊いた。今までずっと、兄貴とロミオの間に入ることに怯えていたから。
ロミオは戸惑い、「あたしの感覚としては、青春を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜるようなかんじ、かなぁ」と答えて微笑んだ。
「ずっと青春について考えて、わかりかけたとき、自分でぐちゃぐちゃにしちゃうの。大人になるの、怖かったのかな?」
ぼくは自分の頬が緩むのを感じた。ロミオが少しだけ、近づいた気がしたから。
「あたしね、バイトなんか絶対やりたくない。歌人になるまで、責任とってくれるわよね?」
「も、もちろんとってやるさ!」
「あたしがどんな理不尽なこと言っても逆らわない? 陰口も言わないでね? ご飯は必ず奢りで、毎日マッサージもして、家事も全部やってくれる? あたしの言うこと、なんでもきいてくれる?」
「あ、いや、そこまでは……」
「あんたと一緒に、人生ムチャクチャになっても仕方ないって覚悟したから。それくらい、いいでしょ!」
「……あぁ、わかった!」
ぼくが答えた、そのときだった。
ちかちか、と音がし、突如ロミオの顔が明滅した。蛍光灯が光を持ち始めている。暗闇が灰褐色になり、徐々に明るくなっていく。
一体誰が点けたんだ?
ロミオは、吸い込まれるように天を仰いだ。そのまま視線を釘付けにされたように動かなくなった。口をパクパクさせるだけだ。
「……?」
ぼくもつられるように、天井を見上げた。そこには。
肌色。肌色。肌色。肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色肌色。
ガラス張りの天井一面に、裸の女たちが貼りつき、覆い尽くしていた。全員の口元が動いた。「アナグマ」と言っているように見えた。どういうことだ? 現実は一筋縄ではいかない。ぼくの想像の遥か上をいくんだ。
ぼくは女の子の裸が好きだ。なのに、ぼくの脳は混乱と恐怖だけが支配していた。いやもう、つべこべ言ってる場合じゃない。
「おわぁぁぁぁぁぁ!」
はじめまして、塚本邦雄さん。
つまり青春とは――えー、大人になっていくこととは、無意味さに(無意味であればあるほど)胸を高鳴らせ……。
いや、違う。もっと単純でいい。
ま、要は「おわぁぁぁぁ」って気持ちである。
っていうのは、どうですか?
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