第6章【ちょっと、露出狂に会いに】③

「兄貴だって大人になってたんだよ。自分が特別じゃなくてそのへんのやつらと同じだってことを、受け入れるのが怖かっただけだ!」

 ぼくは叫ぶ。ロミオは、躊躇いながらも反論をしてきた。

「……でも!」

「兄貴は外国に逃げたんだ! どうせ、逃げられもしないのに……」

 彼はどこかわからない国で、何のためかもわからない橋を作っている。そして、そのことで自己陶酔に陥っている。

 でもきっと、毎日心のどこかで後悔しているはずなんだ。

 ロミオだけじゃない。ぼくは、兄貴がすごく好きだった。だからこそ、ここにはいない彼から卒業しなくちゃいけないんだ。

「兄貴に選ばされたなんて思うのは、絶対に嫌だ。だから」

 今の大人たちが正解だと言っているわけじゃない。だけど、変わるべきだと思ったなら、それもいいんじゃないかと思うんだ。

「いつとか、どうやってとかは、わからない。でも」

 暗闇の中にぼくらはいる。一歩先も危うくって、不確かな中に。それでも、肌に感じるロミオの熱だけは本物だった。

「大人に、なろう。構造に怯えすぎずに」

 正義のヒーローかもしれない。犯罪者かもしれない。

「特別じゃなくても、生きていかないといけない。実は選ばされたんだとしてもいい。変わりたいと思ったら、変わってもいいんじゃないかな。逃げなければ、自分で選んだとはっきり言える」

 ロミオは、黙っていた。

「ぼくは兄貴より顔もよくないし、頭も悪いし……でも、勝手に名前も知らない外国に行ったりはしない」

「……」

「ずっと、お前のそばにいる。だから最初は怖くても、一緒に生きてみようよ」

「……あー、そ! わかった、わよ」

 ロミオは、拗ねたように早口でまくしたててきた。でも、ぼくの方をきちんと向いているのは、暗闇の中でもわかった。目を合わせるのが苦手なぼくたちだけど、今は、お互い見つめ合っていなきゃいけない。

「さっきは一緒に死ぬって言ってたのに、早速矛盾してるじゃない。あんたってホント無責任!」

 ロミオの体温。熱があるぼくよりもあつい、女の子の熱。いつか、忘れてしまう感覚かもしれない。

 彼女は、そっとぼくの胸におでこをくっつけた。視線は逸れたけど、たしかにロミオはぼくの近くにいた。

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