第2章【あたしの一大事は、世界の一大事よ】④

「あたし本気よ? たしかここに……」

 ロミオはロッカーを開け、中から何かを取りだした。それは、手のひらサイズの、ピンクの正方形の薄いシートのようなもの。

『ゴム』だ。ここで引きさがるのは、あまりにカッコ悪い。ぼくは、目も合わせず彼女を促した。

「……だいたいさ、やるったって、どこで」

「あたし、水泳部じゃん? 補欠だから、プールとかロッカーの掃除するために鍵持ってんの。これねぇ、儲かるのよ」

「儲かる?」

「やっぱりやりたい盛りの大学生じゃない? でも、ホテルは高いし、実家の子なんかはいつもやる場所を探しているのよ。だからね、あたしは場所を提供してあげているの」

「『プールの鍵貸します』ってか?」

「なに、それ?」

 もちろんビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』をもじったわけだが、どうやらロミオは知らないらしい。

「ラブホがわりにプールを提供するの。元手はタダ。頭いいでしょ」

「何十年も前に、似たようなこと考えてる人がいるんだよ……」

 ぼくたちは知らないうちに、ならされた轍の上を走っているのだ。

「このアイデアで、ずっと生きていければいいと思わない?」

「そんなの……」と言いかけて、ぼくは迷った。

 どうして、いけないんだ? どうして、プールをラブホテルがわりにして金を稼いで生きていくのはいけないんだろう?

 世の中が、許さないから?

 ロミオはぼくの話を聞いてはおらず、一人で意気込んでいた。

「大人たちに、若者の乱れた性を見せつけてやりましょうよ!」

「……楽しそうで羨ましいよ」

 ぼくは、一番聞きたかったことを黙っていた。

 お前、誰かとしたことあるの?

 ってさ。

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