第1章【ロミオは、アメリカンドッグみたいな女の子だ】⑦

「隆、起きて! ……だいたい、夢占いってずるいわ。なんでも欲求不満って言うし。言われなくなって世の中みんな性欲まみれよ」

 ロミオは呟いた。

「それもすごい極論だな」

「だってあたしがそうだもん。隆だってそうでしょ?」

「……いや……ぼくは別に」

「つまんないことばっか言わないで! どうして『なんてやつだ! ロミオにちょっかいを出す男は喉をかみちぎってぶっ殺してやる!』って言わないの? 幼なじみの女の子の肉壺が狙われているのよ?」

 彼女は時々、官能小説みたいな言葉を引っ張ってくる。

 肉壺。どうしようもなく、間の抜けた言葉。セックスをデフォルメし、同時に「世の中こんなもんだよ」と代弁する言葉。

「幼なじみ、か。ぼくら……いつまで…………」

「やっぱり眠いんでしょ? ダメよ、今日は寝ちゃダメ」

「……いいよ、ほっといてくれ」

「徹夜くらいしなきゃダメよ」

「今までしたことないことをするのは……嫌いなんだよ」

 些細なことの積み重ねで、自分が変わってしまう気がする。好きじゃなかったアメリカンドッグを、突然好きになったり、さ。

「それに、徹夜ってなんか怖いじゃないか」

「怖い? なんで? 相変わらず臆病ね」

「……今は土曜日だろ?」

「土曜日わね。日曜日よ、正確にいえば」

 確かに今は、厳密にいえば「日曜日の午前二時半」だけれど、ぼくとしては「土曜日の二十七時半」という方がしっくりくる。

「だから寝ないと、いつまでたってもずっと土曜で、一生日曜がこないんじゃないかって思っちゃうんだ」

「ふーん。じゃあ、もっと怖くなることを教えてあげる。……徹夜すると、翌日の自分に会えんのよ」

 顔が見えなくても、彼女が得意気に鼻を鳴らすとこが想像できた。

 都市伝説かなにかだろうか?

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