第1章【ロミオは、アメリカンドッグみたいな女の子だ】②

 今ちょうど、そのロミオからの電話を受けている最中だ。ぼくは東京の豊島区にある、自宅マンションのベランダにいる。

 世間は受験シーズン真っただ中。一浪しているぼくはその渦中にいて、二週間後に本命大学の受験を控えている。それは、ロミオが通っている大学だ。とはいえ、滑り止めの合格は決まり、受験勉強も惰性に近い。さっきまで英単語の暗記をしていたが、それも自分へのいい訳だ。なんにせよ、寒空の中、好きでこんなところにいるわけじゃない。ロミオの命令である。

「あたしが寒いおもいをしてるんだから、あんたが部屋でぬくぬくしてていいわけないでしょ!」と、アルコールで呂律の回っていない、たがの外れた声で、自分勝手な論理を押しつけるのだ。

 彼女は現在、大学のゼミの飲み会の帰りらしい。大学のそばを一人で「パトロール」しているという。このところ大学の近辺で露出狂が出るようだ。(別に誰もパトロールなんか頼んでない)大学は、ぼくの、そしてロミオの家からも徒歩圏内にある。

 彼女がどんなルートで歩いているのか想像した。というより、思い浮かんでしまうのだ。

 このマンションからほど近い空色の一軒家、そのロミオの家を出て、高速道路沿いの国道に出る。歩道橋を渡って裏道に入り、右手に小学校を見ながら歩く。その先に、螺旋状の滑り台があることからそう呼ばれている、通称「ねずみのしっぽ公園」がある。公園の中を突っ切り、総合病院の脇から大きな坂に出る。信号を渡ると大学だが、渡らず坂を下って再び裏道に入り、また同じ道をぐるぐると回る。別れるときは決まって、病院の脇の自動販売機の前。

 ここまではっきり浮かぶのは、今までぼくとロミオが、何度も何度も歩いた道だからだ。正直、小学生からの付き合いだから、座ってじっくり話すのは照れくさい。(いつまで幼なじみでいられるんだろう?)歩きながら、目も合わせず喋るくらいがちょうどいい。

 彼女は歩きながらいつも言っていた。世の中の男はあまりに臆病で、「宝石みたいなケーキが入った箱を持ちながらも、崩れることを臆せず小走りができる」くらい、勇敢になるべきだと。

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