第3話 ギルドへようこそ

ハロンに到着して数分、馬車が止まるとシェリアさんはさっさと降りてしまいコウキさんに促されて僕も降りると、そこには周りの建物より少し大きく、扉の上になにかの紋章が入った施設があった。


「さぁ到着だぜ、ルアク君」

「ここは、何の施設なんですか?」

「ここの正式名称はハロン役所。集会所や会館なんて呼ぶ人もいるけど、一定の職業のやつが沢山いるからいつしかこう呼ばれるようになった。ハロン役所改めて、ハロンギルド!」

「熱弁のところ申し訳ないが、早く中に入れ」

「え?…ってシェリー!置いていくなよ!!」


コウキさんには申し訳ないが、シェリアさんに目で促されてハロン役所改めてハロンギルドに入って行くと、目の前には役所のようにいくつかのカウンターがあり、左には食事処(というより酒場)、右には階段があり2階に行けるようになっている。


「あ、シェリアさん!お帰りなさいませ!」

「セシルさん、今戻りました。依頼の護衛クエストについて報告を…」

「セシルちゃん!今回俺大活躍だったんだぜ?話聞きたいだろ?今夜デートでもどう?」


シェリアさんが受付の女性と話し出すと、そこにコウキさんが割って入り話を遮ってしまう。それな対してシェリアさんはゴミを見るような目で睨みつけるが当の本人は気づいていない。


「どう?YES?俺はいつでも準備出来て」

「結構です(ニコッ)」

「…そんな、万遍の笑みで断らなくても」


だが受付嬢のセシルさんにキッパリ断られ、コウキさんはその場にしゃがみこんでしまった。


「セシルさん、完遂報告書です」

「はい、完遂報告書を受理致します。お疲れ様でした。それで、その子は?」

「街外れの川辺にいたんです。ご両親は他界との事ですので保護しました」

「そうでしたか。所長を呼んで参りましょうか?」

「お願いします」


セシルさんが奥に行くと、シェリアさんに連れられ食事処のひとつのテーブルにつく。


「あの、良いんですか?彼」

「ほっとけ、日常だ。一緒に来ると決めたのなら慣れておけ」


この会話の後、シェリアさんは口を開かなかった。きっと必要最低限の会話しかしない人なんだろうけど、そのおかげで色々考えをまとめることは出来た。

まずここは異世界で間違い無いだろう。スライムにしろ、ギルドにしろ、クエストにしろ、認めざるを得ない。周りの人間も、剣を携えた男性や斧を持つ大男、そして杖を持つ女性とRPGさながらだ。それに比べ僕は某名探偵よのうに体は12歳の子供になってしまい、孤児という扱い。さっきシェリアさんは“保護した”って言ってたから、このまま孤児院送りにでもなるのだろうか?…そもそもこの人はクエスト途中に僕を保護してるけど、何故そんなことを?それに受付のセシルさんも驚いて無かったけど、初めてじゃないのか?

この問題を解決するにはシェリアさんやコウキさんが、どう言う肩書きの人か知る必要がある。話してくれるか分からないが、聞くしかない。


「あのっ!」

「ん?どうした?」

「シェリアさん達は、何をしてる人達なんですか?」

「……冒険者かつ慈善活動。とだけ言っておく」


答えてくれた!内容は必要最低限だけど、十分情報になる。


「…そうですか。さっき保護したって言ってましたが、僕はこれからどうなるんですか?」

「すぐ分かる」


んー…これは手強い、質問内容を変えてみるか。


「クエストの途中に僕を保護してくれたのは何故ですか?」

「君が一緒に来ると決めたからだ。あそこで一緒に来るのを拒めば保護はしない。変な事を聞くな君は」


ぐぬぬ…ここまで手強いとは。

ていうかこんな大クセの人がチーフで、あれからずっとしゃがみこんでる人がいる慈善活動グループ(パーティと呼ぶべきか)ってどうなんだ?心配でしかない…

次はどんな質問をしてみるかと考えていると、セシルさんが一人の男性を連れて戻ってきた。


「シェリアさん、所長をお連れしました」

「よう、シェリア。クエストお疲れさん」

「グラン役所長、お世話になっております」

「相変わらず固い挨拶だな。まぁいい、んで?そこの坊主が今回お前さんが保護した子か?」

「はい。ルアクよ、彼はこの役所の所長を務めるグラン・ハロンさんだ。自己紹介は自分でできるな?」

「はい。初めまして、ルアクと言います。家名はありません。歳は12歳です。両親は他界して、1人で川辺で生活してました」

「ほう。孤児ではあるものの、学はあるみたいだな。それにこの俺を初めて前にして物怖じしないとはな、面白い坊主だ」


グラン・ハロン所長はかなりの大柄で、この施設内のどの人物より大きいと思う。


「失礼ですが、身長は?」

「2m15cmだ。でけぇだろ?」


でけぇ…

とりあえず、それを元に推測すると、シェリアさんはだいたい170cm、僕は目線の高さから150cmってところか?


「とりあえず、詳しい話は奥でしよう。着いてこい」


グラン所長に着いていくと建物の1番奥まで行き所長室に到着し、中に入るなりグラン所長は自席に、シェリアさんは近場に腰掛けたので、僕もシェリアさんの近くに腰掛ける。あれ?誰か忘れてるような…


「シェリアさん、コウキさんは?」

「さっき言っただろ?ほっとけ」


すると数秒遅れてコウキさんが部屋に入ってきた。


「全く、毎回置いてくなんて酷いじゃないか。でもこの様子だと、話はこれからみたいだね」


コウキさんも適当なところに腰掛けたところで、グラン所長が口を開いた。


「さて、ルアク君。君はきっと、これから自分がどうなるのか、不安に思っているだろう。世界には君のような子は沢山いる。私は少なくとも自分の管轄するこの街ではそういう子を救いたいと思っているんだ。自己満足と罵られたとしても、行動する事に意味があると思っている」

「グラン所長、その話長くなるので本題をお願いします」

「おっと、済まない済まない。そこでルアク君。18歳になるまでは近くの孤児院での生活を保証する。18になった時点で退院となるが、そこからは君の人生だ、好きに生きるといい。さらに12歳の君は冒険者登録が可能だ。今日から冒険者となり、精進するも良し。まぁ大抵のこが孤児院に入るが、君は確りしてる。冒険者もいいと思うが、どうだ?」


なるほどなるほど、冒険者か孤児院か。

冒険者は異世界転生の醍醐味というか、夢見たことではあるけれど、でも僕にはチート能力も、最強武器も授けて貰えず、冒険者になったら地道に弱モンスターを狩って行くことしか出来ず、生活に困るだろう。そもそも僕は戦うの嫌だし、死の危険がある職にはつきたくない。かと言って孤児院というのも、この年齢に転生してしまった運命なのか。でも出来れば自力でこの世界で生計を立て第2の人生を有意義にしたい。


「少し、考える時間を下さい」

「うん、いいだろう。考えがまとまったらまた来なさい」


その後コウキさんのお誘いで一緒に夕食をとることになり食事処に移動した。


「にしてもルアク君って面白いね!あの所長を前にして泣き出さなかった子は君が初めてだよ!!まぁ、大抵保護する子は10歳未満だから怖がって当然かもしれないけどさ」

「そうなんですか…でも確かにグラン所長は存在感強いですよね」

「ところで、君はこれからどうするつもりなんだ?」

「どうするつもり、ですか…」

「そうだ。今夜のこの食事と寝床は保証するけど、明日から私達も仕事に戻る。初めて会った時にも言ったけど、暇じゃない。冒険者になるにせよ、院に入るにせよ、明日中には決める事を勧める」

「おいシェリー、それはちょっとあんまりじゃないのか?彼には生きる権利がある。それを支援するのが俺らの仕事だろ?」

「そうだな。ならコウキ、貴方が彼を一生面倒見るのか?」

「そ、それは、」

「出来ない、だろ?」

「……」

「私達の仕事は慈善活動だけじゃない。ルアクよ、ここから先は君が考え、判断していくしかない。分かるな?」

「はい、承知の上です。明日中にはグラン所長に自分の考えを伝えます」

「ならいい。さ、好きなものを頼め。今日に限って、遠慮はいらないぞ」

「はい、ご馳走になります」


夕食をご馳走になった後、僕は喉を潤したく再度メニューを取り、そこで思いもよらないものを目にした。


「こ、コーヒー?コーヒーがあるんですか?」

「あぁ、コーヒーも取り扱ってるみたいだが、飲みたいのか?」

「ぜひ!お願いします!」


まさか異世界でコーヒーが飲めるとは。アメリカンとかラテとかは書いてないが、1口飲んでみたい衝動を抑えられない。味が気に入れば毎日飲みに来よう!


「おいおい、まだ子供だろ?あんなもんより果実水(ジュース的なもの)にしとけって」

「僕はコーヒーを所望します!」

「…後悔しても知らねぇぞ?すげー苦いんだぞ?」

「その苦みがいいんです!とにかくお願いします!」


シェリアさんがコーヒーを店員に注文してくれたが、店員さんも僕が飲むと知るや否や果実水への変更を勧めて来たが、僕は断固拒否し異世界版コーヒー待った。

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