あの冬、私は化かされた

rapipi

狐と狸と君

雪のふるような寒い冬。

私はこたつでぬくぬくしていた。

こういう日は何もせず、ただダラダラと過ごすのも悪くない。

今は冬休みなのだし。

高校の終業式は2日ほど前に終わったばかりだ。

寝そべりながら、私はスマホを見る。

動画を見ているとピロンという音と共に通知がくる。

「お願い勉強教えて~」というメッセージ。

どうやら送り主は幼馴染みの圭介のようだ。

「仕方ないなーいいよー」と返信する。

赤城圭介は小さい頃からずっと一緒で家も近い。

よく私の家で勉強を一緒にしている。

数分後、チャイム音がなる。

ドアを開けると、コートを着てマフラーをした圭介が立っていた。

息は白く、髪は塗れていて、まだ解けていない雪も付いていた。

「おじゃまします。」圭介が言う。

私は、玄関に入った圭介の髪の雪を払って落とす。

「いいよそれくらい! 自分でするから。」

圭介は顔を真っ赤にして言う。

私はくすくすと笑いながら、圭介と居間へ向かう。

圭介は昔から弟みたいな存在だった。

小さい頃、人見知りの彼は友達と遊ぶときはいつも私の後ろにくっついて隠れていた。

私は圭介をからかうのが好きだ。

その反応がまたかわいいのだ。

私がこたつに入ると、圭介はリュックからノートや筆箱を取り出してこたつの上に置く。

圭介は、私の横に座る。

「やっぱこたつっていいなー。」

圭介が気持ち良さそうに言う。

「それな~。」

私も呟く。

本当に、寒い日のこたつほどいいものはない。

「っていうか勉強!」

私が思い出して言う。

「ああ! そうだった。」

こたつは心地よすぎた。

それから小一時間、圭介に数学を教えた。

ふとスマホを開いて通知を見ると、母からメールが届いていた。

「今日はお父さんとお母さんは仕事で遅くなるよ。夜ご飯は、キッチンの上の戸棚にある、赤いきつねか緑のたぬきを食べておいてねー。だって。」

私はメッセージを読み上げた。

「じゃあ俺はそろそろ帰ろうかな。」

「夜ご飯食べていきなよー。」

「いいよ、悪いし。」

「いいのー。今、この家は私と圭介しかいないよー。」私が笑って言う。

「はあ! そんなこと考えるわけねーじゃん!」

圭介の顔はさっきよりも真っ赤だ。

「冗談だよー。でもさ、一人でご飯食べるの寂しいからさー。一緒に食べよ!」

「わかった。桜がそういうなら仕方ない。」

私たちは幼馴染みだし、圭介がそういう気が起きないことも知っている。

私はキッチンにいき、椅子を流しの前に置く。

「いいよ、俺がとる。」

すぐ後ろに圭介がいて、私は少し驚く。

戸棚は私の身長では届かない。

圭介の肩が私の肩にふれ、ドキッとする。

いやいや、幼馴染みだし。

私は何を感じているのだろう。

あれ、こんなに身長高かったっけ。

圭介は余裕で戸棚のものを取り出せるぐらいの身長だった。

昔は私より小さかったのに。

圭介の背中が少し大きく見えた。

キッチンで赤いきつねと緑のたぬきにお湯を注ぎ、蓋をしてこたつへ持っていく。

私はきつね、圭介はたぬきが好きだった。

昔から、私と圭介は性格も好きなものも真反対だった。けれども、なぜか私たちはいつも話していて楽しかった。

3分待っている間、何か話そうと、昔書いた作文の話をした。

「テーマが『大事な人』についてのだったんだけど、パパとママがその時いつもより優しかったんだよねー。2人とも書いてほしかったんだろうね。」

私が笑いながら言うと、「俺のお母さんとお父さんももそうだった。」と、圭介も笑って話す。

「圭介は誰を書いたのー? もしかして私?」

私が冗談で聞く。

少しの間の後、圭介が口を開いた。

「そうだよ、桜のことを書いた。」

「えっ?!」

私の顔は今赤くなっているのだろうか。

顔が熱いのはきっとこたつのせいだ。

「桜は俺の大事な人だ。桜のおかげで今までやってこれた。」

「そ、そうだよね! 幼馴染みとしてだよね。」

私の胸の鼓動を感じる。

心臓ってこんなにバクバクすることってあるんだ。

「これからは、桜を守りたい、桜の力になりたい。」

「それって。」

ダメだ私今真っ赤なんだろう。

「桜と俺は全然違う。でも、この先何年も、何十年も、2人で一緒に過ごしたい。」

圭介の顔は真面目だった。

「桜、好きだ。付き合ってくれ。」

気づくと、タイマーがピピピピとなる。

3分がたっていた。

沈黙のなか、タイマーだけが鳴り響いていた。

「やっぱごめん、今のなし。」

圭介が顔を真っ赤にしてうつむく。

圭介が蓋を開けると、湯気とともにほんのり甘い醤油のつゆの香りが立ちこめる。

そばの上には丸い小エビの入った赤と緑が混ざった天ぷらがのっている。

「圭介、さっきの話だけど。」

圭介はまだ顔を赤くして、こちらを向く。


圭介への返事は、私達しかしらない。

きっと未来は光輝く。










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