第15話「誤魔化し」
月曜日。
今日も今日とて、朝起きた俺が歯を磨いていると背後霊が一人。
一体何が楽しいのか、ニコニコと微笑みながら俺の事を見つめる我らが生徒会長は、こうして今日も朝から元気に背後霊に勤しんでいるのであった。
そして、今日も二人分のお弁当を用意すると、今日もあーちゃんは学校へ着くまで背後霊を継続するのであった。
「おはよう! 和也!」
「おう、おはよう幹久」
すると、学校の近くで偶然あった幹久に声をかけられる。
そして隣に並んだ幹久は、後ろを歩くあーちゃんをみて笑う。
「まさかあの、生徒会長がねぇ」
そんな幹久の言葉に、俺も後ろを振り返る。
するとそこには、今日も生徒達に囲まれるあーちゃんの姿があった。
しかしその視線は、バッチリとこちらへと向けられており、そして俺が振り返った事に気が付くと、明らかに嬉しそうな顔をしていた。
その様子に俺は、本当に幹久の言う通りだなと笑えてきてしまう。
今も皆に笑顔を振り撒いているあの生徒会長が、バレるかどうかギリギリのところで素を出してくるのだ。
そんなあーちゃんのギャップを、幹久も改めて実感しているのだろう。
こっちを見るあーちゃんの姿に笑っていた。
そして、ようやく背後霊から解放された俺は、幹久と教室へ向かって歩いていると、突然声をかけられる。
「おっすー幹久! それにー、あ、そうそう! もう一人の伊藤くんだ!」
「あいたっ! って、なんだよ美香かよ」
幹久の背中をパシリと叩きながら声をかけてきたのは、同じクラスの
オレンジがかった髪をポニーテールにまとめる、元気な女の子というのが俺の彼女に対する印象だ。
そんな佐伯さんは、背が高くてスタイルもよく、男子達からは美人だと人気も高い。
その綺麗な容姿だけにあらず、こんな風に男子達とも気さくに会話出来るところもまた佐伯さんの魅力だと言えるだろう。
「なんだよとはなにさ! お姉さん怒っちゃうぞ!」
「お姉さんって、同い年だろ」
呆れる幹久に、無邪気に笑う佐伯さん。
こんな風に二人が会話しているところは度々目にするのだが、何て言うか傍から見ているといつも二人とも相性抜群といった感じだった。
そんな、クラスで一番の美男美女コンビのやり取りに俺も加わり、他愛の無い立ち話をしながら一緒に笑っていると、突然背後から何とも言えぬ気配を感じる――。
「諸君、おはよう」
振り返るとそこには、さも偶然通りかかったように装うあーちゃんの姿があった。
◇
「か、会長!? おはようございますっ!」
突然現れた会長ことあーちゃんに驚いた佐伯さんは、慌てて頭を下げて挨拶をする。
そんな佐伯さんに、普通はこういう反応するもんだよなと気付いた俺と幹久も、慌てて挨拶をする。
「うむ。仲が良いのは結構だが、他の通行人の邪魔にはならぬようにな」
「はい! すみませんでした!」
あーちゃんの言葉に、慌てて謝る佐伯さん。
確かに、廊下の真ん中での話し込んでいるのは邪魔だったかなと思わなくもないが、きっとあーちゃんのそれはそんな理由じゃない。
佐伯さんが普通に透けて見えていた。
だから俺は、そんな過保護で気にしいなあーちゃんに一言言ってやろうと思っていると、慌てて幹久が割り込んでくる。
「あー、その! すみませんでした会長! 言われてみれば、こんな所で話す必要もなかったし教室入ろうぜ!」
そう言って、会長に会釈をしながら俺達の背中を押す幹久。
そんな幹久の行動に、あーちゃんも仕方ないなといった感じで黙って俺達を見送る。
こうして察しの良い幹久のおかげで、俺はまたしても口を滑らす事なく済んだのであった。
「……あれ? 幹久って、会長と知り合いか何か?」
しかし、事態はそれだけでは済まなかった。
どうやらここに、もう一人察しの良い人がいたようだ。
それは勿論、俺と一緒に幹久に背中を押される佐伯さんだった。
「え? いや、そんなわけねーだろ」
「ふーん、じゃああれはなんで?」
咄嗟に誤魔化す幹久に、佐伯さんが疑うようにあれと言って視線を向けるのは、背後に立つあーちゃんの方だった。
てっきりもう立ち去ったものだとばかり思っていたが、なんとあーちゃんは去り行く俺達を仁王立ちで見送っているのである。
そして、俺が後ろを振り向いた事に気が付くと、やはり満足そうに微笑むのであった。
だが、ここでのそれは完全に失敗だった。
何故なら、こちらを見ながら微笑むあーちゃんの変化を、察しの良い佐伯さんが見逃すはずがなかったから。
そんなあーちゃんの様子を見て、更に怪しむ佐伯さんに俺も幹久も困惑する。
「せ、生徒思いの会長だよな!」
「あ、ああ! そうだな! 助かる!」
そして俺と幹久の出した答えは、やっぱり誤魔化すだった。
会長は、注意した生徒を見送っているだけ。今出せる言い訳はそれしかなかった。
「……ふーん、怪しいけどまぁいいわ」
そんな俺達に、納得はしていない様子だけれど、もう興味をなくしたのか佐伯さんはそう言って友達の女子の輪へと加わって行った。
「……はぁ、すまん幹久」
「……いや、いいさ。中々大変だな」
こうして、なんとか危機を脱した俺達は、朝から疲れた笑みでお互いを称え合ったのであったのであった。
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