第13話「ゲーム」

 部屋の小さめのテーブルを囲って、俺と幹久、そしてあーちゃんが座る。

 いざあーちゃんも加わったものの、男二人に女の子が一人、これから何をしたらいいのかと何とも言えない空気になってしまう。



「えっと、ゲームでもする?」


 しかし、ここは部屋の主である俺が何とかしなくてはと思い、とりあえず提案をしてみる。

 とは言っても、基本的にゲームと漫画が少しあるだけのこの部屋、選択肢はその二つぐらいだった。


 そんな俺の提案に、幹久は午前散々やったけれどまぁ仕方ないかという感じの顔をしており、そしてあーちゃんはというと――平静を保ちつつも、その目の奥をキラキラと輝かせていた。


 ――本当にあーちゃん、ゲーム好きだよね


 という事で、幹久には申し訳ないけれど、ここはまたゲームをして遊ぶことになった。



「あーちゃん、パズルの好きでしょ? 幹久と対戦してみなよ」

「うん! やる!」


 ゲームを起動し、そう言ってコントローラーをあーちゃんに渡す。

 するとあーちゃんは、完全にオフモードというか、いつもの家にいる感じで楽しそうにコントローラーを握った。


 だが、それがまた不味かったようだ。

 そんな、ただゲームで遊べる事に子供のように喜ぶあーちゃんの姿に、またしても幹久は驚いて固まっていた。



「幹久?」

「え? あ、ああ、すまん。何て言うか、その……会長って、やっぱり思っていた印象と違うんすね」


 幹久のその感想は、ごもっともだった。

 学校でのあの厳格な姿から、今のこのゆるキャラな姿を想像出来た人がいれば、それはもうそういう仕事に就いた方が良いだろう。


 それ程までに、身近な中で一番のギャップの塊であるあーちゃんご本人はというと、不思議そうに首をかしげつつも、やっぱり楽しそうに微笑んでいるのであった。



「なんつーか、和也がこの事を隠そうとしていた意味がよく分かったわ……」

「まぁ、そういう事なんだよ」


 幹久の言葉に、俺は笑って答える。

 これまで隠し通さなければいけなかった理由を、こうして誰かに理解して貰えた事が何故だかちょっと嬉しくも感じられた。


 そんなこんなで、幹久とあーちゃんによるパズルゲーム対決が開始されたのだが、俺でも敵わなかった幹久にあーちゃんが敵うはずもなく、華麗に惨敗していたのは最早言うまでもないだろう。



「や、やるじゃないか……」

「会長、俺、大きな勘違いをしていたみたいです」

「勘違い?」

「はい、会長って、何でも出来る人だと思ってました」


 きっと天然で言っているのだろう、そう言って笑う幹久。

 しかし、その言葉はあーちゃんのプライドを傷つけたのか、悔しそうに肩を震わせるあーちゃん。



「リベンジだ!」

「いいですよ」


 そしてこのあとも、十戦連続で瞬殺されるあーちゃんなのであった。



 ◇



「な、何故だ……何故勝てない……」


 絶望するあーちゃん。

 しかし、絶望的なのはあーちゃんの腕前の方だ。


 あれから何度勝負を挑んでも、明らかに手を抜いている幹久に一度も勝てないあーちゃん。

 それでも、負けながらもずっと楽しそうにゲームをしていたあーちゃんが、結局一番楽しんでいたのは間違いないだろう。

 元々お遊びなのだ、楽しんだもの勝ちという意味では、あーちゃんが優勝だった。


 こうして、それからは俺も混ざりながらゲームを交代で遊んでいると、あっという間に時間が過ぎて行く。



「悪い和也、トイレ借りるわ」

「ああ、扉出てすぐ左の扉な」


 ゲームもひと段落ついたため、訳もなくテレビを見ていると、一度大きく伸びをして立ち上がった幹久はトイレへと向かって行った。



「かーずくん!」


 そして幹久が部屋から出ると、その隙にいきなりあーちゃんが抱きついてくる。

 それはまるで、これまで幹久がいる事でずっと我慢していたものをようやく開放させるかのように。



「ちょ、あーちゃん? 今は不味いから」

「ちょっとだけだから充電させて」

「充電?」

「だって、かずくん成分が不足して、手足が震えてきたんだもん」


 え? 俺が不足すると手足が震えるってマジ? やばくね?


 ――なんて感想は置いておいて、それにしてもこれは不味い。

 きっと幹久は小便だろうから、すぐに戻ってくるだろうから。



「あとでいくらでも充電させてあげるから、今は駄目だってば」

「えー、かずくんのケチー」

「ケチとかじゃなくて、幹久が戻ってきたらどうするのさ」


 そう言って引き剥がすと、あーちゃんは渋々受け入れてくれた。

 これ以上関係が捲れてしまっては一大事だという事を、この生徒会長様は本当にちゃんと理解出来ているのだろうか。



「ふぅ、スッキリ―って、ん? どうかしたか?」


 そして、案の定すぐにトイレを済ませて戻ってきた幹久。

 本当に紙一重である。



「ああ、いや、何でも無いよ」

「そうか、ならいいけど。あ、あの漫画読んでいいか?」

「ご自由にどうぞ」


 こうして無事バレずに済んだため、それからは三人で家でのんびりと過ごす事になった。

 しかし、既にうちにある漫画は読破済みのあーちゃんは、する事が無さそうにソワソワしていた。



「かずくんは、何やってるの?」

「え? ソシャゲだよ。ウマの女の子を育てるやつ。キャラがみんな可愛いんだよね」


 聞かれた事に、俺は素直に答える。

 しかし、俺の返事に対して、何故かあーちゃんは少しだけ不満そうな表情を浮かべている事に気付いた。


 ――え? 何?


 その謎の反応に戸惑っていると、あーちゃんは幹久に聞えないぐらいの小さい声でぼそりと呟く。



「……私の方が、可愛いし」



 そう呟いて、ジロリと疑うようにこっちを見てくるあーちゃん。

 そんなわけで、一体何事かと思えば、どうやらソシャゲのキャラにまで嫉妬をするあーちゃんなのであった。



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