第12話「関係」

「ナ、ナンノコトダ」


 突然の幹久の言葉に、あーちゃんはまたロボットのようにカタコトになってしまう。

 そんな挙動不審で分かり易すぎるあーちゃんに、幹久は堪え切れないといった感じでぷっと吹き出す。


 全くもって、相変わらず誤魔化すのが下手過ぎるあーちゃん。

 流石にこれじゃバレバレだよなと、この先どうしたものだと俺は呆れて頭を抱えてしまう。



「いや、和也。お前もだぞ?」

「ふぇ?」


 予想外のそんな言葉に、思わず変な声が出てしまう。

 俺もって、何がどういう意味だ?



「いや、逆になんでお前はバレてないと思ってるんだよ」

「いや、え?」


 思っているもなにも、それはあーちゃんがポンコツだからであって……。



「あのなぁ、家の前であった時もおかしかったけどな、こうして生徒会長と相席してるってのに、お前普通過ぎるんだよ。何、普通に生徒会長様とお喋りしちゃってるんだよ」

「……あっ」


 なるほど、言われてみると全くもってその通りだった。

 この場を取り持たなければと思っていたのだが、そもそも知り合いじゃないならあんな風に話してるのは確かに考えてみるとおかしい。


 そんな、我ながらポンコツ過ぎるミスを犯してしまったとガックリしていると、目の前に座るあーちゃんは俺をいじるようにニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


 ――いや、貴女もですけどね!?


 なんなら、あーちゃんの方が分かりやすかったからね!?

 そんな抗議の目を向けていると、そんな俺達の姿を見ていた幹久は、深く納得するように頷いていた。



「最早、隠す気がないようで」

「いや!」

「違うぞ!」

「はいはい、どっちもどっちですよ」


 どっちもどっち。

 客観的に言われたその一言が、最早この場の全てだった。


 こうして、完全に幹久に俺とあーちゃんが知り合いな事がバレてしまったのであった。

 だがしかし、逆を言えばそれだけなのだ。


 まだ俺達が付き合っている事については、流石にバレてはいないだろう。

 だから、これ以上のボロに気を付けてさえいればまだセーフなのだ。



「――まぁ、これ以上隠し通す事も出来ないか。そう、私と和也くんはな、幼馴染なのだ」


 そして、あーちゃんも同じ考えだったのだろう、腹を割って俺達が幼馴染だという事をカミングアウトする。

 もう下手は出来ないと思っているのか、ここはちゃんと話し方も生徒会長モードに戻っていた。


 嘘を付く時は、真実を混ぜると良いとはよく言うが、今回のこれはまさにそれだった。

 今あーちゃんの言った言葉だけなら嘘偽りはないため、幹久もその言葉に納得する。



「なるほど、だから隣に住んでるんですね」

「ああ、元々私が住んでいる部屋の隣が空いていたのでな、だったら幼馴染である私の近くに住めば、何かと安心だろうという配慮の結果なのだ」

「納得しました。でも、珍しいですね。幼馴染が二人とも一人暮らししてるなんて」


 納得した幹久は、きっと何気なしに思った事を口にしただけな感じだった。

 確かにそうだ、高校生である俺達が一人暮らしをしているのも珍しいし、更には幼馴染だなんて確率的にはきっと物凄く低い。

 まぁそれには、一応理由があるのだけれど――。



「ああ、私の両親は今海外へ行っていてだな――まぁなんだ、その、色々あるのだ」


 そんな幹久に、あーちゃんはこの話題を終わらせるように理由をざっくりと説明する。

 すると、幹久もその意図を察したのか、それ以上この話題を追及はしてこなかった。



「そうか、まぁ色々ありますよね! いやぁ、ここのラーメンマジで美味かったなぁ! ご馳走様でした!」


 そして空気を変えるように、そう言ってご馳走様をする幹久。

 そんな幹久の気遣いというか何というか、そんな気持ちはしっかりと伝わってきたため、俺もあーちゃんも合わせてご馳走様をする。


 こうしてラーメン屋を出た俺達は、帰りは三人一緒に家へと戻る事にした。



 ◇



「では、私はここで失礼する」


 アパートへ到着すると、あーちゃんはそう言って一人自分の部屋へと戻ろうとする。

 しかし、そんなあーちゃんに幹久は声をかける。



「え? いや、会長もお暇ならご一緒したらいいんじゃないですか?」

「え、な、何を言っているんだ?」


 突然幹久から発せられたその言葉に、驚くあーちゃん。

 その反応は当然で、俺もいきなり何を言い出すんだと驚いてしまう。



「いや、会長って、普通に和也の部屋に出入りしてますよね?」

「な、何故!?」

「すみません、普通にその、カーペットに長い黒髪が落ちてたので、点と点が線になったっていうか」


 やはり驚くあーちゃんに、笑って理由を答える幹久。


 いや、幹久お前、もしかしてあれか? 名探偵なんちゃらの類のやつか?

 そんな、いくらなんでも察しの良すぎる幹久に、俺とあーちゃんはもう言葉が出て来なかった。



「その、俺も嬉しいんすよ、憧れの生徒会長と話せる機会なんて絶対ないと思ってたから。あ! でもあれっすよ? 俺、ちゃんと好きな子いるんで、会長に対して変な気があるとかは無いんで、そこは安心して下さいね!」


 え!? そうなの!?

 確かに変な気を起こされちゃ困るけど、そうだったの!?


 場を和ますように、けろっと普通に結構な事をカミングアウトをする幹久に、やっぱり俺とあーちゃんは二人して驚いてしまう。


 でもまぁ、幹久がそう言うならっていうのと、午後もあーちゃんをボッチにさせるのもちょっと可哀そうだよなと納得した俺は、ここは素直に幹久の言葉に従う事にした。



「……まぁ、幹久はこう言ってるけど、あーちゃんはどうする?」

「……じゃ、じゃあ、私も一緒していいなら、かずくんのうちにお邪魔しちゃおうかな」


 無理強いは出来ないから、最期の判断は任せるように俺は誘うだけ誘ってみた。

 するとあーちゃんは、頬を少し赤らめ、もじもじと恥ずかしそうにしながら小さく頷く。


 そんな、最早普段の生徒会長の面影も無い、思いっきり素が出てしまっているあーちゃんの仕草を前に、そろそろあーちゃんに慣れてきたと思われた幹久も驚いて固まってしまう。


 ――どうだ幹久、うちの子の素の破壊力、ハンパないだろ?


 学校じゃ絶対に見せない、あーちゃんの女の子全開な素の仕草。

 もう成るようになれと思った俺は、その破壊力を目の当たりにして驚く幹久の新鮮な反応が見れた事に、とりあえず今は満足しておく事にした。


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