第11話「ラーメン」
「え、会長って和也の家の隣に……え?」
困惑する幹久。
それは無理もなく、いつも遠巻きに眺めるだけだったみんな憧れの生徒会長が、こんなに近くにいるのだ。
それは幹久じゃなくても、よく分かる反応だった。
しかし、この場はどうしたものか……。
前回、生徒会室で宮下さんと鉢合わせてしまった際は、あーちゃんが上手く切り抜けてくれたけれど、今回のこれはバッチリ見られてしまっている分、もうそんな小手先ではどうにもならないだろう。
そんな事を思っていると、ふっと笑みを浮かべながら、余裕のある表情に切り替えたあーちゃんが口を開く。
「ヤァ、キミタチハ、オナジコウコウノセイトダネ。トナリニスンデルナンテ、キグウダナァ」
――いや、誤魔化すの下手過ぎません!?
何を言うかと思えば、カタコトになりながらしらばっくれるあーちゃん。
今回も上手い事言ってくれるとちょっと期待したが、流石に直接見られてしまっている以上今回はあーちゃんにもどうしようもなかったようだ。
変な汗を流しながら、露骨に気まずそうな表情を浮かべるあーちゃんに、幹久も何かに気付いた様子だった。
しかし、幹久が何かを言い出すより先に、あーちゃんは先手を取る。
「で、では私は、ちょっと出てくるのでな! さらばだ!」
そう言ってあーちゃんは、足早にこの場から立ち去ってしまった。
それは、今の選択はこの答えの見当たらない状況において一番の正解だと言えた。
「なんか会長、変だったな……」
「ま、まぁ、そうだな……」
「きっと家バレした事を気にしてるんだろうけど、そんな事言いふらしたりなんてしないのにな」
そう言って笑う幹久に、俺はようやく先程の幹久のリアクションの理由が分かった。
――そうか幹久は、家バレしたあーちゃんの事を気にしてくれてたのか。
確かに幹久は、会長の家がどこか分かったからって言いふらすような人間ではない。
漢気に溢れているというか、曲がった事をしないキッパリとした性格をしているからだ。
だから幹久なら要らぬ心配だろうし、更には俺達の事には突っ込んでこないため俺は色んな意味でほっとした。
「にしても、隣に会長が住んでるのに、今まで気付かなかったのか?」
「え? ああ、まぁ、そうだなハハハ」
「ふーん、まぁいいか、さっさとラーメン屋行こうぜ」
誤魔化して笑う俺に、幹久は俺の肩をポンと叩いて歩き出す。
どうやら幹久はもう気にしていない様子だし、気を取り直して目的のラーメン屋へ向かう事にした。
◇
ガラガラガラッ
「へい、いらっしゃーい」
ラーメン屋の扉を開けると、元気な店主さんの声が店内に響き渡る。
そして店内を見回すと、やはり人気店という事もあり既に席は全て埋まっていた。
そして一番奥にあるボックス席に、一人座る女性の姿が――あーちゃんだった。
なんとあーちゃんは、あのあとどこへ行ったのかと思えば、まさかの同じラーメン屋さんへご飯を食べに来ていたのである。
あーちゃんとしても驚きだったのだろう、こちらを見ながら驚いて固まってしまっていた。
「え、会長!?」
「あれ? お客さん達お知り合いですか? 今満席なんで、相席してくれると助かります」
驚く幹久に、店主さんがそんな事を言ってくる。
まぁ知り合いと言えば知り合いだし、もっと言えば彼女と言えば彼女なのだが……。
こうして、店内は既に満席な事もあり、俺達は店主の提案に従ってあーちゃんこと我が校の生徒会長の座るボックス席へと一緒に座る事になってしまったのであった――。
「その、すみません会長……」
「いや、満席なのだ仕方あるまい……」
申し訳なさそうにする幹久に、気まずそうな顔をするあーちゃん。
とりあえず、こうして座ってしまった以上、両方の知り合いである俺がばれないように場を繋ぐしかあるまい。
「か、会長もその、ここ食べにくるんですね?」
「あ、ああ、よく来るのでな」
へぇ、初耳なんですけど。
何故教えてくれなかったのかはあとで問い詰めるとして、ここは他愛の無い話で場を繋がなくては――。
「やっぱりここのラーメン、美味しいですか?」
「ああ、そりゃもう! ここの麺は細麺でな、それがスープとよく絡んで美味しいのだ! あ、でもほら、この間行ったあそこのラーメン屋も――コホン、何でもない」
俺の質問に、ラーメン好きのあーちゃんはその目をキラキラと輝かせながら力説する。
そして力説するが余り、この間一緒に行ったラーメン屋の話までしようとするあーちゃん。
慌てて口を閉ざして誤魔化したが、本当にギリギリだった。
幸い幹久は気付いていないようで、それよりも憧れの会長と相席出来る事が嬉しいのか、楽しそうにニコニコと微笑んでいた。
場を繋ぐにしても、あまり下手に会話をし過ぎるとあーちゃんのポンコツが発動してしまうため、早く注文したラーメンが届かないかなと待つ事にした。
そして暫くすると、店主さんが気を使ってくれたのか、同じタイミングでラーメンが三つ届けられる。
見ると確かに美味しそうで、あーちゃんなんて待ってましたとばかりに嬉しそうに微笑んでいた。
それから一口食べてみると、たしかにあーちゃんの言う通り麺にスープがよく絡んで美味しかった。
「本当だ、美味しいっすね」
「だろう、絶品なのだ」
同じく美味しいと感想を言う幹久に、何故か自分の事のようにドヤ顔で答えるあーちゃん。
「あはは、でも何だか、会長って思ってた感じと違うんすね」
「思ってた感じ?」
「あー、はい、もっと何て言うか、厳格で近付き辛い感じかなぁって勝手に思ってました」
「そうか、そんな事はないぞ。私も普通の高校生だ」
申し訳無さそうに話す幹久の言葉に、そんな事ないと笑って答えるあーちゃん。
そうだぞ幹久、我が校の生徒会長の私生活は、厳格とは真逆だからな!
なんて内心俺が笑っていると、幹久はあーちゃん、そして俺の方を交互に見て、何かを確信するうに笑いながら口を開いた。
「そうみたいですね――――それで、いつから二人は仲いいんですか?」
そして語られたその質問に、俺もあーちゃんももう固まるしかないのであった――。
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