第10話「土曜日」
ピンポーン!
土曜日がやってきた。
そして朝の十時過ぎ、家の呼び鈴が鳴らされる。
その後ドンドンと扉を叩かれないという理由で、これがあーちゃんではない事を意味しているというのも変な話だが、モニターの先に映っている人物を確認すると確かに別人であった。
「おっすー!」
「いらっしゃい」
こうしてうちへ来たのは、あーちゃんではなく同じクラスの幹久だった。
約束通り、今日は同じクラスの幹久がうちへと遊びに来たのである。
ちなみにあーちゃんには、今日の事は勿論事前に言ってある。
最初は土曜日うちでゆっくり出来ない事に不満そうにしていたのだが、俺にも友達付き合いはあるよねと渋々了承してくれたのであった。
だからきっと、今も隣の部屋にあーちゃんはいる。
多分この時間なら、土日はしっかり眠るあーちゃんの事だしきっとまだ爆睡している頃だろう。
だから、まさか幹久もすぐ隣の部屋で憧れの生徒会長が寝ているだなんて思いもしないだろうなと思うと、ちょっと面白かった。
きっと今頃あーちゃんは、いつものように腹を出しながら寝言でも言っているだろう。
「へぇ、片付いてるじゃん」
「まぁな、そんな広いわけでもないし」
「とか言って、女を連れ込んでるんじゃねーだろうな?」
ニヤニヤと笑いながら、早速いじってくる幹久。
まぁ、一人暮らしに対して健全な男子高校生が思う事なんて、そんなもんだろう。
しかし、そんないじり方をされても、残念ながら女を連れ込んでいるなんて事はある意味全くもってその通りだから、俺は何も言えなかった。
「そ、そんなわけねぇだろ、綺麗好きなんだよ」
「ふーん、まぁいいや。お、ゲームあるじゃん! 勝負しようぜ!」
とりあえず誤魔化すと、幹久もその話題は流してくれた。
どうやら幹久も本気で言ったわけではなく、それよりも高校生の友達が一人暮らししてる事の方が嬉しいのだろう。
これからも遊びに来る気満々といった感じで、既に実家のように寛いでいる幹久の提案で、とりあえずうちにあるゲームで遊ぶことになった。
――だが幹久よ、この数少ないゲーム、悪いがどれをとっても俺はそれなりにやり込んでいるのだよ!!
◇
あれから、二時間程ゲームをやっていただろうか。
ぶっ続けでやっていたため、流石に疲れが回ってきた。
そして結果から言うと、幹久の腕前は凄まじく、ゲームの持ち主の俺の方が何故か負け越してしまったのであった。
あーちゃんには全戦全勝だっただけに、この結果は割と普通にショックだった。
「俺の圧勝だったな!」
「うるせーよ、ってか、ゲーム上手すぎないか?」
「……いや、俺が上手いって言うより、和也が絶望的に下手だぞ」
真顔でそんな事を言う幹久。
マジか、俺ってゲーム下手だったんだな……。
あーちゃんにはいつも圧勝出来るから、てっきり自分では上手い方だとばかり……いや、というか、そんな俺に全敗するあーちゃんはどうなるんだろう?
明日からゲームの特訓でもしようかと思いつつ時計を見ると、早いものでもう十二時を回っており、お腹も空いてきた事だしそろそろ昼ご飯を食べようかという時間だった。
「もういい時間だけど、昼飯どうしよっか」
「んー、そうだなぁ。あっ! そういえば、この辺に有名なラーメン屋なかったか?」
「え? マジで? 知らなかった!」
そんなお店があるなんて、今日の今日まで知らなかった俺はスマホで早速検索してみる。
すると確かに、学校ともスーパーとも違う方向の割と近くのところに、ラーメン屋さんがあった。
こんな所にラーメン屋さんがあるなんて、全く気付かなかった自分にビックリする。
しかも幹久の言う通り、めちゃくちゃ評価も高い。
こんなもの、早速行くしかないじゃないか――!!
という事で、お昼は幹久とそのラーメン屋さんへ行ってみる事になった。
幹久も実際行った事はないようで、丁度良かったと二つ返事でオッケーしてくれた。
それから身支度を済ませた俺達は、いざそのラーメン屋へ向かうべく玄関を出る。
そして、玄関から出たまさにその時である。
ガチャっと扉の開く音が、もう一つ聞こえる――。
「あっ」
それから俺達の方に向かって、何とも間の抜けたような声が一つ。
「……え? か、会長!?」
そしてすぐ後ろからは、幹久の驚く声が聞こえてくる。
そう、いざラーメン屋へ向かおうとしたその矢先、俺達は丁度同じタイミングで隣の部屋から出てきたあーちゃんとバッチリ鉢合わせてしまったのである。
なんてタイミングが悪いんだと思っても、完全に後の祭り。
こうして、何とも最悪なタイミングでかち合ってしまった結果、我が校みんなの憧れの的である生徒会長様こと篠宮亜理紗が、俺の部屋の隣に住んでいる事が早速幹久にバレてしまったのであった――。
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