第50話 僕なんかの家にいる和水さん⑮
「待ってください和水さん! 身体は、身体は流石に自分で洗いますから!」
僕は必死になって和水さんを静止した。
だって和水さんに僕の身体を洗わせるだなんて、そんな天国のような、いや夢のような……いやいや間違った、そんなけしからん事を和水さんにさせるわけにはいかないからだ。
「え~なんで? だいたいさ、そんな目隠ししててちゃんと洗えるわけ?」
だというのにこれである。
まったく僕の紳士的な気遣いに気が付かないのか、和水さんはむしろ洗ってくれる気満々らしい。
まったく、困ったお方だ。
こうなったら、僕の紳士パワーで何とか和水さんを言いくるめて回避するしかないだろう。
「和水さんに一旦外に出てもらって、それからタオルをとって洗えば」
「嫌に決まってんじゃん。私もちょっと濡れちゃったし、今出たら寒いもん」
「で、ですよね。えっと、じゃあですね」
「ていうかさぁ、そんなに私に身体を洗われるのが嫌ってこと?」
「い、いえそんな滅相もないです! ただ、和水さんにそこまでしてもらうのは申し訳ないといいますか」
「もう髪洗ったし今更気にする必要なくない? ほら、大人しくしてて、私が気持ちよくしてあげるから」
「はひぃ!?」
ピタッと、僕の背中に柔らかぁい何かがくっついた。
それは程よく温かくて、まるで人肌のように温い。
ていうか、人肌そのものだ。
べったりと背中にくっつくその感触は、僕には覚えがあった。
これはまさしく、和水さんのオッパイ。
「ぁ、ぁ、あぁあ、あ」
「やっと大人しくなったね。ふふ、いい子だから、そのまま私に身を任せればいいの」
耳元で和水さんの囁くような声が聞こえる。
タオルで視界を塞いでいるからだろうか。和水さんの声が異様に色っぽく聞こえてしまう。
そのまま首元に手をまわしてくる和水さん。
僕は完全に後ろから和水さんに抱きしめられてしまった。
それだけ和水さんが密着してくると、僕の背中に押し当てられているオッパイも潰れたように形を変える。
僕の背中で、和水さんのオッパイが広がっていく感触がはっきりと分かる。
そして何よりも、柔らかな感触の中に二か所だけ感じる違和感。
ふにふにとした感触のオッパイの中で、少しだけ固い何かが僕の背中に当たっていた。
それを感じ取った瞬間、僕の全神経が背中のその部分に集中する。
その感触を正確に捉えようと、背中全体の神経がまるでセンサーのように研ぎ澄まされる。
そうして僕が必死になっている間も、和水さんは動きを止めない。
僕の背中にくっついたまま、腕を伸ばしてボディーソープを出しているらしい音が聞こえる。
和水さんが力を入れてボトルを押すたびに、僕の背中にオッパイがめり込んでくる。
その感触のなんと気持ちよいいことか。
童貞の僕には、とてもそこから逃れようなどとは微塵も思えない程の快感だった。
和水さんのオッパイから、和水さんの体温を直接感じる。
シャワーの影響だろうか、オッパイから伝わって来る和水さんの体温は、少し熱いくらいだった。
「ぁ、ぁぁ、あ」
僕はもうまともに受け答えができない。
口から垂れている涎すらそのままだ。
和水さんと裸で密着しているこの状況。
こんな非現実的な事があっていいのだろうか。
僕みたいなチビでなんの取り柄もない変態の童貞が、自分の家のお風呂で、クラスメイトのギャルに身体を洗ってもらっているのだ。
もしこれは夢だと言われても、僕はすぐに納得することができる。
けれど、さっきから感じるこのオッパイの柔らかさと気持ちよさは、決して夢などでは味わう事ができない本物だった。
僕は本当に裸の和水さんと身体を密着させているのだ。
その現実を認識した時、僕はもういろいろと限界だった。
いや、とうに限界など越えていた。
何故なら、僕の大事な部分は、もうすでにスタンドアップしてしまっていたのだから。
「じゃあ、身体を洗っちゃうね」
そんな状態で聞こえて来た和水さんの言葉は、僕にとって死刑宣告も同然だった。
もう言い訳のしようもないほど、立派に反応してしまっている僕の身体。
和水さんが前に回れば、これを隠すことなど、どうやっても不可能だろう。
僕が頭を打ったから、和水さんはそれを心配してここまでしてくれているというのに、僕はそんな善意を踏み躙って、ただ和水さんの身体の感触で興奮している。
そんな事が知れたら、流石に軽蔑されてしまうかもしれない。
普通いくらクラスメイトでも、いくら心配だったとしても、こんな事までしてくれる女の子なんていない。
いや、これがイケメンなら違ったのかもしれないけれど、少なくとも僕は今までの人生でこんな事をしてくれる女の子には、和水さん以外には一人として出会ったことはない。
和水さんが特別なのだ。
いつもしかめっ面で周りを威嚇している和水さんが、僕だけには何故か身体を張ってこんな事までしてくれる。
僕にとって和水さんとのこの関係は、もはや何にも代える事ができない、かけがえのないものだ。
もし和水さんの善意をこんな性欲全開の反応で受けていた事が知れたら、僕も他の皆のように、あの冷たい視線を向けられるようになってしまうかもしれない。
少し想像しただけで怖くなった。
今は慈愛に満ちた瞳を向けてくれる和水さんから、刺さりそうな程の目で見られたら、僕はもう立ち直れない。
それくらい深いところまで、僕は和水さんにのめり込んでしまっている。
僕は今、何よりも和水さんに嫌われてしまうのが怖かった。
「和水さん!!」
だから、といっては少し乱暴だろうか。
いや、ずっと感じていた快感にのぼせそうになっていたのだから、正常な判断なんてできるはずもなかったのかもしれない。
とにかく僕は、元気になった股間を和水さんに見られるのはマズいと思ったのだ。
背中を洗われている間ならまだいいけれど、きっとその刺激で僕の股間はもっと元気になってしまう。
そう考えた僕は、受け身になることをやめ、どうにかして和水さんを止めようと思ったのだ。
だが、それが本当に馬鹿の所業だった。
「これ以上はもう危険です! だから……あ」
「……あ」
何を思ったか、僕は勢いよく立ち上がって和水さんを振り向いた。
止めようとしたわけなのだけど、振り返ってから気付いた。
これだと、僕から元気になった股間を和水さんに見せつけている事にならないだろうか、と。
しかも、立ち上がった瞬間に、腰に巻いていたタオルが、落ちてしまったのが感覚的にわかった。
股間がスース―したのだ。
「ぁ、ぁあ、違うんです!? これは、僕の意思に関係なく……あ」
「……あ」
何ということでしょう。
慌てて首を振りながら言い訳をしていた僕の顔から、目隠しに使っていたタオルが飛んで行ってしまったではありませんか。
急に開ける視界。
湯気に覆われた浴室の中で、僕の目に飛び込んでくる和水さんの姿。
肌色一色のその綺麗なお身体が見え、そして、
「ぉぉお、き、きれ、ぃだなぁ」
曇る視界の中に、僕は見た気がしたんだ。
和水さんのその大きなオッパイの全景を……。
「あ、あれ?」
その瞬間、頭に血が上りすぎたのか、それとも和水さんが心配していた通りに昼間の影響か、僕はフラッと視界が揺れて、身体の平衡感覚を保てなくなった。
自分の身体の言う事が利かない。
なすすべなく傾いて行く自分の身体。
そのままブラックアウトしていく視界。
消えゆく意識の中、僕が最後に感じたものは、何か柔らかいものに受け止められた感触だった。
顔が柔い大きなものに挟み込まれ、僕は無意識に顔が挟まっているそれを掴んだ。
柔らかな感触が気持ちよくて、自然と手が動いて揉んでしまったのは無意識だから仕方ないはずだ。
掌に伝わる心地よい感触。
微かに聞こえた艶っぽい吐息。
それを最後にして、僕の意識は宇宙の彼方に飛んでいった。
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