第40話 僕なんかの部屋にいる和水さん⑤
「ほらぁ、早く呼んでみてよ」
「ぃ、いや、そんな、呼べませんよ」
「はぁ? 何でよ!?」
「いや、そんな驚かれましても、流石に恥ずかしいからですよ」
「私がママとして相応しくないって言うの!?」
「いえ、そんな事は言ってませんから!」
「私じゃ直のママになれないって言うの!?」
「いやだからそいう問題では」
変なスイッチが入ってしまったらしい和水さんは、どうしても僕にママと呼んでほしいらしかった。
鬼気迫る形相の和水さんに詰め寄られ、名前を呼ばれたことすら気にならない程、僕はタジタジになった。
だがそれでも、なんとか最後の一線だけは死守していた。
確かに、同年代の中では断トツのチビの僕は、小学生か中学生くらいの身長しかない。
その反対に、同年代の中でも色々と最高級にデカい和水さんは、プロのバレーボール選手くらいの身長がある。
並んでいるところを知らない人が見れば、大人と子供に見えるだろう。
それは分かってる。
僕だってそれくらい認めてるのだ。
心の中では身長が180あると思い込んでいても、戸棚の一番上には届かない。
身長が180以上あるのは和水さんで、僕はただのチビ。
僕と和水さんの間に、大人と子供くらいの身長差がある事は、どうしても覆す事のできない事実だ。
だが、だがそれでも!
同級生の女の子を『ママ』と呼ぶことなど、いったいどうしてできようか。
いやできない。
何故なら僕のプライドが許さないからだ。
喩え、いくら僕がチビで馬鹿で情けない変態童貞だとしても、それだけはやっちゃいけない。
喩え、普段はキツイ表情で周りを威嚇している和水さんが、僕だけに慈愛に満ちた優しい表情を向けてくれたとしても、それだけはやっちゃいけないのだ。
僕だって一端の漢。
変態でも、童貞として心に一本の芯を持った立派な漢だ。
同級生の女の子をママと呼んで甘える事なんてできるわけがない。
「クラスメイトの女の子をママなんて呼べませんよ!」
僕は和水さんに向かって堂々と言い切った。
自分の心にある、決して折れる事のない芯を見せつけたのだ。
僕の漢の雄たけびを聞いて、目を丸くして驚く和水さん。
その表情を見て僕は、勝った、とそう思った。
そんなわけなかったのだけど……。
「……へぇ、じゃあ、これならどう?」
「へ?」
和水さんが驚いていたのは本当に一瞬だけだった。
すぐにいつもの不敵な表情に戻った和水さんは、口角を吊り上げて笑い、何故か自分の掌で、すくい上げるように自分の大きな胸を持ち上げたのだ。
「んなっ!? 何してるんですか!?」
僕の目の前数センチで、和水さんの胸が強調される。
ただでさえ、普段から制服がはち切れそうになっているほど存在感が凄い和水さんのオッパイ。
その大きなオッパイが持ち上げられる事で、さらに激しくその存在を主張していた。
もはや僕の視線は和水さんの胸部に吸い寄せられてしまっている。
恐るべき魔力だった。
喩え心に芯のある漢だとしても、オッパイには勝てない。
これは世の中の心理だ。
オッパイは、この世の何よりも尊い。
齢十七、僕は世の心理を見た。
「ふふっ、さっきから釘付けじゃん」
「はっ!? ぃ、いえ、そんな事は」
「ねぇ知ってる? 胸ってさぁ、母性の象徴なんだよ?」
問いかけて来る和水さんは、今度は腕を組んで胸を持ち上げた。
目の前で柔らかそうに形を変える膨らみから目が離せない。
しかも、ここは僕の部屋の中だ。
自分のむさくるしい部屋の中、美少女の和水さんが、その豊満な胸を揺らしている。
その状況を一度認識してしまった僕は、もうまともな思考能力を放棄してしまったも同然だった。
血が体内を駆け足で巡り、脳が上手く働かない。
今僕の脳内では『オッパイ』という単語だけが飛び交っている。
「胸が母性の象徴ならさぁ、これだけ胸が大きい私は、母性に溢れてるわけだよね?」
ねっとりとした声で語り掛けて来る和水さんが、ゆっくりと僕に近づいてくる。
すでに僕の後ろは壁だ。逃げ場はない。
僕はすぐに壁とオッパイで挟まれていた。
壁に背をつけている僕の顔、その数ミリ前に、和水さんのオッパイがある。
その魔力に吸引された僕は、その柔らかそうな膨らみに顔を突っ込まないようにするだけで必死だった。
「クラスの女の子たちを思い出してみて、私より大きな胸の人はいた? いないよね? 学校中の女の子を含めてもいいよ。どう? 一つ上の先輩も、大人の先生も、誰も私より胸の大きな人なんていないよね?」
まるで目の前のオッパイが喋っているような気がした。
和水さんのオッパイは、自身の大きさを誇らしげに主張している。
その雄弁な姿は、まさにキング。
自分よりも大きな胸などない。自分がこの辺りでは一番大きな胸だと、自信満々に宣言しているかのようだ。
そして、その自信に偽りはない。
この僕がそれを証明できる。
僕は童貞で、変態だ。
女の子のオッパイとか、パンツとか、そういうので四六時中脳内がにぎわっている。
そんな変態の僕は、女の子とすれ違う時は、必ず胸をチラ見する。
気持ち悪いと罵られても仕方ないだろう。
けれど、これはもう習性のように身体にしみついた動きだった。
そこにオッパイがあれば、見ずにはいられない。
僕は和水さんに出会うまでは、学校中の女の子のオッパイに目を奪われてきた。
だからこそ、学校中の女性の中で和水さんのオッパイがチャンピオンだという事が分かるのだ。
「どう? 私より大きな胸の女の子なんていないよね?」
勝ち誇るようなその問いに、僕はゆっくりと頷いた。
和水さんが笑ったのだろうか、目の前のオッパイが楽し気に揺れる。
ぷるんぷるんと揺れるその様は、まさに圧巻の一言だった。
「なら言ってみて、誰が一番母性に溢れてる?」
「……それは、和水さん、です」
「じゃあ誰よりも母性に溢れてる私は、ママとして相応しいんじゃないの?」
「……それは、それはっ!」
僕はまだ最後の一歩で踏みとどまっていた。
だが、そんな踏ん張りも意味のないものだったのだ。
不意に、和水さんがもう一歩近寄ってきた。
僕はもう後ろに下がれない。
後頭部はすでに壁とくっついている。
そこに、和水さんがその大きなオッパイを、ゆっくりと、それでいて重厚に僕の顔に押し付けて来た。
正面からオッパイを押し付けられ、僕の顔は柔らかな塊の中に包まれる。
息が出来ない程の重圧を感じながら、僕はただただ押し付けられるオッパイの感触に夢中になっていた。
「どう? 納得したなら、ママって呼んで?」
「…………ママぁ」
「ふふっ、かわい」
心の芯など初めからなかったかのように、僕は和水さんのオッパイに敗北した。
この日、僕は初めて同級生の女の子を『ママ』と呼んだのだった。
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