第41話 僕なんかの部屋にいる和水さん⑥


 僕は母性の象徴に敗北した。


 漢としてのプライドを捨て、同級生の女の子を『ママ』と呼んでしまった。


 和水さんの胸の中で息が出来ず、窒息しそうになった僕は胸の谷間から懸命に顔を出して息を吸い込む。


 和水さんの体臭なのだろうか、甘ったるい香りを大量に吸い込んでしまい、息が苦しかった時よりもクラクラした。


「ふふっ、ちゃんと言えたね。えらいえらい」

「ぁふぅ」


 胸の谷間から顔を出している僕を、愛おしそうに見つめる和水さん。


 その瞳はまるで愛しい我が子を見る母親のように、母性に溢れていた。


 優しく褒められ、ゆっくりと頭を撫でられる。それだけで、ただでさえクラクラしていた僕は、脳が全てとろけそうになった。


「ぁ、ぁ、和水さ、僕、もぅ、立ってられな」

「顔真っ赤だよ。少し横になろうか?」

「は、はい、できれば、も、もぅ無理です」


 必死に訴えた僕は、やっとオッパイのホールドから解放された。


 息も絶え絶えになりつつ床にしゃがみ込む。


 倒れ込むように座ると、和水さんも目の前の床に腰を下ろす。


 何故か正座だった。


 短いスカートから惜しげもなく伸びている和水さんのむっちりとした太ももに僕が目を奪われていると、和水さんは自分の膝をポンポンと叩いて僕を見た。


「おいで、膝枕してあげるから」


 そう言って手招きしてくる和水さん。


 僕は音を鳴らして生唾を飲み込んだ。


 張りがあり、それでいて柔らかそうな和水さんの太ももに、僕はこれから頭を乗せる事が出来る。


 そんな提案をされたら、童貞の僕には到底我慢できるものではない。


 僕は手招きする和水さんに、吸い寄せられるように近寄った。


「ぁ、ぁの、じゃ、その、失礼して」

「待った!」


 和水さんの膝に倒れ込もうとした直前で、ストップをかけられる。


 むちむちの太ももを目の前にして、生殺しにされた僕が我慢できない瞳を向けると、和水さんは意地悪そうに笑った。


「さっき和水さんって言ったでしょ? 今日は私の事、なんて呼ぶんだっけ?」

「ぇ、あ、ぁ、それは」

「ママって呼んで、私に何をして欲しいのか言ってみて? ちゃんとできたら膝枕して、よしよししてあげるよ」

「ぁ、あぁ、ぁ、ぁああ」


 それは僕にとって最高のご褒美だった。


 漢のプライドなど欠片もなくなるくらい、和水さんの提案は魅力的だった。


「ま、ママ」

「はぁい、ママでちゅよ~」

「ぁ、ママ、ママ!」

「ママに何して欲しいのかなぁ、ちゃんと言えるかな?」

「ママ! ママに、ママにひ、膝枕して欲しいです!」

「よく言えましちたね~。いいよ、おいで」


 和水さんんからのお許しが出た時、僕はもう我慢することが出来なかった。


 和水さんの太ももから発せられる魔力に吸引され、一刻も早く膝枕して欲しいという想いが暴走していた。


 ねっとりとした和水さんの声に誘われ、僕は躊躇する事なくむちむちの太ももに倒れ込む。


「ぁ、ぁあ、す、すごい!」


 和水さんの膝の感触は、本当に天国としか表現できないくらいの気持ちよさだった。


 後頭部で感じる弾力のある生の太ももは、この世の何よりも僕に気持ちよさを与えてくれるものではないのだろうかと本気で思える。


 いや、和水さんのオッパイもこの世の何よりも僕に気持ちよさを与えてくれるけれど、まぁどちらにしても和水さんの身体が最高に気持ちいいのは疑いようもない事実だ。


 しかも、和水さんの凄い所はこれだけでは終わらない。


 和水さんの膝に後頭部を乗せ、上を見上げている僕の鼻先には、あの大きなオッパイがあるのだから。


「す、すごい、すごい!」


 その光景はまさに圧巻だった。


 オッパイでできた影が僕の顔を覆っている。


 圧迫感の凄まじいその光景は、けれでもまったく抜け出そうとは思えない魔力を秘めていた。


 仰向けで和水さんの下乳を眺めながら寝そべっている僕は、どこかの国の王様にでもなったのだろうか。


 それくらいの特権でもなければ、決して見る事のできない光景が、今僕の眼前に広がっていた。


「ふふっ、そんなに興奮して、ママの膝枕がそんなに気持ちいいんでちゅかぁ?」


 オッパイが話しかけて来る。


「ぁ、あ、はい! ママの膝枕すごく気持ちいいです!」


 僕はオッパイに向かって元気よく返事をした。


「ふふ、元気に返事ができて、いい子でちゅねぇ」


 するとどうだろう、和水さんが頭を撫でてくれたではないか。


 髪を優しくすくように撫でてくれる和水さんの手の感触は気持ちよく、僕は心地よい眠気に誘われる。


「いい子にはもっと気持ちいい事してあげてもいいけど、どうしてほしいかなぁ?」

「え、も、もっと、気持ちいいこと……し、して欲しいです!」

「ならぁ、ちゃんとお願いしないとね? いい子ならちゃんとできるでしょ?」

「ママ! もっと気持ちいい事してください! お願いします!」


 もう一切の躊躇いもなかった。


 僕は和水さんを、同級生の女の子をママと呼ぶ事に抵抗も感じず『気持ちいい事』につられて叫んだ。


「はぁい、よく言えました。じゃあご褒美ね」


 うっとりとした和水さんの声が聞こえた次の瞬間、僕の鼻先にあった和水さんのオッパイが、僕の顔に向けて落ちて来た。


「ぅっ!?」

「どう? ママの胸が好きなんだよね? 気持ちい?」


 和水さんの膝とオッパイに顔をサンドされた僕は、顔が全部和水さんのオッパイに埋まり、返事が出来なかった。


 むしろ息も出来ない。


 圧迫感と重量感がものすごく、息が出来なくて苦しいのに、顔に押し付けられている柔らかい感触が気持ちよくて、その場から動こうと思えない。


 むしろ一生このままオッパイに埋もれていたいとすら思える。


 そんな馬鹿な僕は、眠気なのか酸欠なのか、とにかく意識が遠くなってきても、そのまま動かなかった。


 このまま死ねるなら本望だと思ったのだ。


 もう随分と忘れていた母性というものに触れ、僕はその象徴ともいえるオッパイの中で死ぬのだ。


 最高の死に場所だと思った。


「ふふっ、ちゃんと気持ちよさそうだね」


 薄れゆく意識の中で、嬉しそうな和水さんの呟きが聞こえた。


 オッパイに埋もれている僕は一言も喋れず、和水さんに返事は出来ていない。


 けれど、仰向けに寝ている僕の身体のとある一か所は、僕がちゃんと気持ちよくなっているという事をズボンの中で如実に主張していた。


 困った事に、それを見られているという羞恥すら今の僕には心地よく、それを隠す気にもならない。


 しっかりとテントを張ったズボンを晒しながら、僕はママのオッパイの中で意識を飛ばした。


「おやすみ、直」


 最後に聞こえた和水さんの声は、安心して僕を眠りに誘ってくれた。

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