第27話 和水さんを尾行する僕④


 僕はしばらく校舎を歩き回っていた和水さんを観察していた。


 当ても無さそうに歩き続ける和水さんは、校舎を一周する勢いで済み済みまで何かを探していたけれど、結局目的の物は見つけられなかったのか、また教室に戻っていった。


 教室に入っていく和水さんを陰から見守る。


 またすぐに出てくるのかと思ってその場から様子を伺っていると、今度はなかなか和水さんが出てこない。


 しばらく待ってみるも何の動きもなく、中の様子が気になった僕は密かに教室を覗いてみることにした。


 ゆっくりと教室に近づきながら、和水さんの行動の意味を考えてみる。


 放課後の様子を見ていれば、少しは和水さんのことが分かるかと考えていたけれど、今日の行動を見ていると余計に彼女の謎が深まってしまいそうだった。


 それくらいには和水さんの行動は意味不明すぎる。



 ……などと考えていたのがよくなかった。


 思えば僕は油断しすぎていたのかもしれない。


 お花に水やりをする和水さんをじっと見ていても気が付かれなかったから、いつの間にか自分が尾行のプロにでもなったような気がしていたのだ。



「何してるの?」


 教室の中をそっと覗くと、すぐ目の前にある胸で視界が塞がれた。


 この大きな胸が誰のものかなんて、今更見間違えるはずもない。


 恐る恐る顔を上げると、案の定和水さんが僕を見下ろしていたのだった。


 尾行作戦失敗の瞬間である。


「あ、和水さん! いやぁ偶然ですね」

「さっきから私のことつけてきてたじゃん」


 咄嗟に偶然を装う作戦も失敗だ。


 どこからかは分からないけれど、僕の尾行は和水さんにバレてしまっていたらしい。


「コソコソ隠れて私のことを見てたけど、いったい何してたわけ?」


 ずいっと顔を寄せて来る和水さんに圧倒されて、僕は思わず後ずさる。


 すると和水さんが距離を詰めてきて、僕はそのまま壁際に追い込まれてしまった。


 和水さんからものすごい圧を感じる。


 壁に追い詰められると、胸の圧迫感も凄まじかった。


 いろいろな意味で追い込まれてしまったけれど、僕にとって唯一救いだったのは和水さんが怒ってはいなさそうなことだ。


 普通跡をつけられていたなんて知られたら、ガチで気持ち悪がられると思っていたけれど、和水さんの表情からはそんな空気は感じない。


 他の人に向けるような鋭い睨みでもなく、純粋に興味があるといった感じに僕には見えた。


 ただそれでも、下手な嘘は通じそうにない。本当のことを話すまで、僕を逃がさないというような眼力も感じる。


 実際に尾行していたことも見られていたなら、もう言い訳のしようもない。


 僕は意を決して、正直に白状することに決めた。


「ご、ごめんなさい! 和水さんのことをその、ちょっと見てました」

「ふ~ん、ちょっとなの?」

「……いっぱい見てました」

「だよねぇ? だって私が気付いてからずっと後ろを追いかけてきてたもんね。それに、私が気付く前からなんでしょ?」

「……はい」

「正直に言えて偉いねぇ」

「あ、えへへ」


 和水さんに頭を撫でてもらえた。やはり正直者は得をするらしい。嘘はよくないよね。


「で、何でこんなことしてたわけ?」


 この時僕の脳内には、ナデナデのご褒美のおかげで嘘はよくないとすっかりインプットされてしまっていて、何でも馬鹿正直に言うことしか考えられなくなっていた。


「それは! 和水さんのことがもっと知りたいと思ったからです!」


 言ってしまったあとで、僕は自分がとんでもないことを言っているような気がしてきた。


 目の前にいる和水さんも、珍しく驚いたように目を見開いていた。

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