第17話 根拠④ お昼を一緒に食べてくれる和水さん④
「え、ホントですか?」
予想外すぎる返答が秒で返ってきて驚く。それが本当なら僕は今、和水さんの手作り弁当を食べたことになる。
「何? 料理できるようには見えない?」
「いえそんな、ホントすごいと思います! 尊敬します!」
「ありがと……」
若干失礼なことは自覚しているけれど、和水さんは僕が思っているよりも、かなり女子力が高いお方なのかもしれない。
ぶっちゃけてしまうと和水さんは料理になんて興味がないと思っていたからだ。
けれど実際に和水さんは、こうして自分で凝ったお弁当を作ってきている。
手抜きで作れそうにないお弁当の完成度から考えて、それなりに時間はかけているはずだ。
僕は卵焼きを最後までしっかりと噛みしめながら、朝早起きしてお弁当を作っている和水さんを想像してみた。
――――――――――
可愛らしいエプロンを付けている和水さんがキッチンに立っている。
可愛らしいお弁当箱が二つ。
和水さんは丁寧におかずを詰めている。
僕はリビングのテーブルから、和水さんが愛妻弁当を作ってくれている姿を眺めているのだ。
自分のために頑張ってくれている和水さん。
なんとも微笑ましい光景にほっこりとしていると、不意に和水さんが挑発的な笑みを浮かべる。
そして気が付く、和水さんの身体を隠しているものが、エプロン一枚だけだということに、
そう、和水さんは、裸エプロンだった。
背中を見せるように動く和水さん、僕の視界に、あのポスター張りをした時に見た、肉づきのいい大きなお尻が――
――――――――――
僕はその辺りでハッとして我に返った。
非モテ力を存分に発揮した妄想でトリップしてしまっていたらしい。
目の前に実際の女の子がいるというのに、自分の妄想の世界に入ってしまうなんて、だから童貞なんだよと自分に言ってやりたかった。
「ご、ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃってました。はは、は?」
何も喋らずにニヤニヤしている僕はさぞ気持ち悪かっただろうと、すぐに和水さんに頭を下げる。
ひかれているかもしれないと思うと怖かったが、和水さんは何も返事をしてくれない。
気になって顔を上げてみると、何やら和水さんは自分の箸を眺めたまま、ボーっとしているようだった。
あの様子では僕が和水さんの裸エプロン姿を妄想して、ニヤニヤしていたことは気付かれていないだろう。
ホッとすると同時に、和水さんがどうしてそんなに食い入るように箸を見ているのか気になった。
「あの、和水さん?」
もう一度話しかけてみると、今度は和水さんも気が付いてくれた。
少しだけ驚いたような顔になったあと、彼女は僕を見て、ニヤリと笑う。
僕はその笑顔を見て、和水さんが何かとんでもないことをしようとしている気がした。
そして、その予感は的中する。
あろうことか和水さんは、僕と視線を合わせたまま、見せつけるように僕が口に入れたばかりのお箸を咥えて舐めとった。
その行為に思わず見惚れる。
和水さんの唇が、舌がスローモーションで動いているように見えた。
箸を舐めとる和水さん。ジュルッという音が耳に残る。
僕の唾液が、ほんの少しだとして箸に付着していた僕の唾液が、きっと今、和水さんの口に入った。
和水さんがしたことはただの間接キスと言えるかもしれない。
けれどそれは僕にとって意識せずにはいられない刺激的な行為。
挑発的な視線も、じっくりと舐めとるような動作も、その全てが僕の神経を刺激する。
今、僕の体液が和水さんの身体の中に入った。
その事実だけで、僕は自分の身体が熱くなるのを感じていた。
「ふふ、顔赤いよ?」
和水さんにそう指摘された僕は、まるで自分が何を考えていたのか当てられた気がした。
恥ずかしさを隠すように残っていたおにぎりにかぶりつく。
チビチビ食べて時間を引き延ばすことなんて、すでに忘れてしまって考えることもできなかった。
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