第15話 根拠④ お昼を一緒に食べてくれる和水さん②
「じゃあ食べよ」
「は、はい!」
和水さんに答えつつ、僕は密かに自分の太ももをつねってみた。
……間違いなく痛い。これは現実だ。
そんなバカなことをしてしまうくらいには、今自分がおかれている状況が信じられない。
人気のない中庭で美少女ギャルと二人きり。
しかも一緒にランチを食べようとしている。
普段の僕にとって、お昼はそれなりにキツイ部類の時間に入る。
一緒にお昼を食べてくれる相手がいない場合、この長い休み時間は授業中のように進む時間が遅くなるからだ。
だから今までずっとお一人様だった僕にとって、この状況は天変地異でも起きたようなものだった。
誰かと一緒のお昼。しかも男の友達とすら食べたことのない僕が、いきなり女の子と二人きりだなんて出来過ぎていて、幸せ過ぎてむしろ少し怖い。
「ていうか、お昼それだけなの?」
僕が自分の幸福さを実感していると、和水さんが微妙な表情でそう聞いてきた。
あの和水さんの表情は、一体どういう感情を表しているのだろうか。
引いているような呆れているような、もしくは心配しているような……。
最後のはただの願望で、絶対にありえないにしろ和水さんは僕が持っているコンビニのおにぎりを見て何か思うところがあるようだった。
「はい、一応は」
「それで足りるの?」
「まぁなんとか。いつもおにぎりだけですけど、今までお腹鳴ったりしたことはないので」
「……ふ~ん」
興味があるのかないのかよく分からない返事が返って来る。
そんな和水さんのお昼は、ちゃんとしたお弁当箱だった。
こう言ってはなんだけど僕には少し意外に感じた。
勝手な想像だけど、和水さんも僕と同じで適当に買ったもので済ませているタイプだと思っていたからだ。
けれど実際には和水さんとはギャップのある可愛らしいお弁当箱を持って来ていて、さらに中身もこれまた可愛らしく彩られていた。
お肉と野菜のバランスも良さそうだし、見た目を意識したおかずの配置にもこだわりがあって美味しそうに見える。ウィンナーなんてしっかりタコさんになっていて、細かいところまで手を入れているような印象だ。
作ったのが和水さん本人か、ご家族の誰かなのかは分からなかったけれど、どちらにしてもお弁当を作った人は結構な手間をかけたのだろうということが分かる出来だった。
和水さんが可愛らしいお弁当を食べ始めて、僕も自分の鮭おにぎりを食べることにした。
いつもなら数口で食べてしまう。時間にしたら3分もかからないかもしれない。
ただ、今日はそんな食べ方はしない。
この夢のような時間をたったの3分で終わらせてしまう訳には行かないからだ。
女の子と二人きりでお昼を食べられる機会なんて、非モテの僕にはたぶんもう一生やってこない。
例えきっかけが和水さんの気まぐれだとしても、僕にとってはかなり貴重な時間。それをすぐに終わらせてしまうなんてとんでもない。
少しでもこの夢のような時間を長引かせるために、僕はチビチビと一口数粒くらいを意識しておにぎりを食べることにした。
「何その食べ方?」
まぁ傍からは変に見えることは分かっていたけれど、案の定すぐ和水さんに突っ込まれてしまった。
「いえ、貴重な食糧ですから、自分、いつもこうして大切に食べてるんで」
長引かせるためだなんて正直には言えないから適当に言い訳してみた。
「足りないならお弁当作ってもらえばいいじゃん」
「それは、うちの親忙しくて、自分でなんとかしろって言われてまして」
これは本当のこと。うちの親はめったに家に帰って来ない。
「自分で作ったりは……無理か」
「はい、お察しの通りです」
肩をすくめてみせると、なんだか和水さんから哀れみの目をむけられてしまった。
同情ではなくご飯をください……なんていうつもりはない。
そもそも、今は時間を引き延ばすためにわざとチビチビと食べているだけであって、本当はこれで足りているから別に必要ないのだ。
だから、僕は和水さんがそんなことを言ってくれるなんて、まるで想像していなかった。
「私のお弁当、食べてもいいよ」
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