第14話 根拠④ お昼を一緒に食べてくれる和水さん①


 ご褒美。その言葉を聞いて思い浮かべることは、人によって様々だと思う。


 個人個人の趣味趣向に左右され、同じ人物でも時と場合でまったく違うものを思い浮かべるかもしれない。


 何か欲しい物がある時は、きっとそれを思い浮かべるだろうし、どこかに行きたいと考えている時なら、その場所への旅行なんかも思い浮かぶだろう。あるいは、単純に好きな食事なんかも多くの人が思い描きそうだ。


 そんなご褒美という言葉を聞いて、僕が真っ先に思い浮かべたことはといえば……とてもじゃないけれど、口には出すことが出来ない。


 最低だと思われても仕方ないことだと思う。


 けれど、あの時の状況になれば誰だって僕と同じような事を想像してしまうはずなのだ。


 決して僕が童貞だからというだけではなく、あくまでも和水さんの魅力による影響のはずだ。


 僕が変態なことを人のせいにしているわけではない。だって、あの胸の感触を味わったら本当に仕方ないってみんなが言うと思うから。


 背中に押し付けられた胸の感触は今でも思い出せる。


 本当に柔らかくて、それでいて存在感を感じさせる重量があった。


 もう虜だ。僕はあの時から、しばらくは和水さんの胸のことしか考えられない頭になってしまったくらいだ。


 それくらいの破壊力があるもので、だからこそご褒美と聞いた僕が口には出せないような想像をしてしまったのは自然の摂理であり、きっと誰だってそうなったはず。


 ……という言い訳はここまでにして、僕は今、実際に和水さんからのご褒美をもらっていた。


 もちろん僕が想像していたようなことではない。


 けれど僕のくだらない妄想と比べても負けず劣らずの最高のご褒美だ。


 今僕は和水さんと二人きりで人気のない中庭に来ていた。時間は昼休み。


 一つだけ設置してあるベンチに和水さんと並んで座っている。


 ここまで説明すれば、ご褒美が何かは分かるはずだ。


 僕は和水さんと二人きりのこのシチュエーションに少なくない緊張を感じていた。


「……ねぇ」


 普段教室にいる時は、無口で眉間に皺を寄せて他人を寄せ付けない怖いオーラをまとっている孤高のギャルである和水さんが、今は僕にニヤニヤとした視線を向けてくる。


「は、はい。どうしました?」

「こっちのセリフなんだけど、どうしたの? 挙動不審だよ?」

「そ、そんなことないですよ! 僕はいたって普通ですから」

「ふ~ん、ま、別にいいけど」


 まるでなめまわすような和水さんの視線にタジタジになってしまう。


 口では必死に否定したけれど、きっと今の僕はどこからどう見ても挙動不審なのだろう。


 けれどそれも仕方ないこと。だって非モテで童貞の僕は、当然のようにこんなシチュエーションを体験したことはないのだから。


 夢に見たことはある。けれど現実では皆無だ。そんなチャンスすらまったくなかった。


 というよりも、僕は生きている間に現実で経験することはないと思っていた。


 だから夢に見れた時は泣いて喜んだこともある。それくらい貴重なシチュエーション。


 僕はこれから、女の子と、和水さんと二人きりでお昼を食べようとしているのだ。


 どうしてこんな夢のような事が現実で起こっているのかというと、事の発端は数学の宿題が出された事に起因している。


 致命的に数学が苦手な僕は宿題に手こずっていて、どんなに頑張ってみても一問も解けない状況に追い込まれていた。頭悪すぎだと思われるかもしれないけれど、本当に数学が苦手でどうしようもなかった。


 そんな僕を助けてくれたのが和水さんだった。


 まったくダメダメの僕に、和水さんは遅くまで付き合ってくれて、僕が全ての問題を正解するまでみっちりと付き添って教えてくれたていた。


 本当にみっちりとくっついてくれた和水さんのおかげで、僕はいろいろな感触が気になって逆に集中できなくなってしまったけれど、そんな僕のやる気を引き出すために和水さんは、全問正解でご褒美を約束してくれたのだった。


 奮起した僕は、自分の妄想に負けそうになりながらも、なんとか全問正解を成し遂げ、そして今そのご褒美を得ているというわけだ。

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