最初の依頼……。

            

       ⋄◇数時間前◇⋄


「飛び級だ……」

 ライラックさんが汗を流しながら言った。

「なにそれー?」

 ルゥは言葉の意味が分かっていないようだ。


 なんというか……天然……。


「飛び級って私たちがですか?」

 と私が訊く。


 私が飛び級なのは、まだ理解できよう。

自分がそれなりに腕が立つということは自覚している。


 ただ、解放されたばかりの元奴隷であるルゥが冒険者試験で飛び級というのは異常だと思う。


「そりゃぁそうだろ。そろって的をボコボコにしたやつらを飛び級させなかったら、俺が上になんて言われるかわかったもんじゃねぇ」

 とライラックさんがルゥをガン無視しながらが言う。


「ねぇねぇ」

「まぁそれもそうですね。ところで、飛び級ってどれぐらいすごいのですか?」

 と純粋に気になったので訊いた。


「教えてよー」

「そうだな……他の街は知らねぇが、この街じゃぁ最後に飛び級したやつは確か……12年前……だったか?」

 ロウタスで12年前ってことは、私たち、そこそこすごいのでは……?


「飛び級ってなにー」

 とルゥが言う。


今まで無視してきたけど、何か言わないと黙りそうもないので、

「後で教えるから。今は静かにして」

 とルゥに言った。


    ⋄◇────────◇⋄


 そんなこんなで飛び級でFランクをすっ飛ばしてEランクからスタートすることができた。


 Fランクで受けられる依頼は全部が採集系の依頼で、討伐系の依頼はEランクからなので正直うれしい。


 そう言うのも、この街、ロウタスが冒険者を始めるのにうってつけと言われている理由が「弱くてお金になる魔物が多いから」なので、討伐系の依頼を早いうちに受けたかったことが理由だ。


 もらった冒険者の証であるライセンスには私の名前と冒険者のランク、魔力量のランクが書かれている。


 どうやら身分証にもなるみたいで、これがあれば簡単に国を行き来することができるらしい。


 そして今、私たちは記念すべき最初の依頼、「地下水路のスライム駆除」をやっている最中だ。


 どうやら、この街は地下水路にスライムを住まわせることで、水の中の微生物をスライムに食べてもらっているようだ。


 ただ、放置しておくとスライムが増えすぎて、地下水路からあふれてくるようなので、こうして、よく依頼になるそう。


 スライムというのは名前の通り、透明な粘液状の魔物で、微生物を好んで食べ、透けている体の中央にある核が壊れると絶命する魔物のことを指す。


 今回のは倒した数によって追加報酬が出るので二人の方が効率がいいと思ってルゥもつれてきた。


 そこで、問題が一つ……。


「あ! スライム!」

「お! こっちにも!」

 と、こんな風にルゥがはしゃぎ回っている。


 私はルゥが迷子にならないように追いかけるので精一杯……。


もうヘトヘト……。


とりあえず落ち着け。


 自衛団の団長よりも体力のある解放されたばかりの元奴隷って、もう完全にバケモノじゃんか……。


それにルゥは汗一つかいていない。


……バケモノめ………。


連れてこなきゃよかった……。


 一応、地下水路の地図をもらったんだけど、ルゥ曰く「地図読めないから預かっといて」だそう。


まぁ、元奴隷だもんね……。


 それと、問題はそれだけではなく、

「セイ!」

[ガン!](地面のコンクリートに剣をぶつけた音)


「ヤー!」

[ガン!](地面のコンクリートに剣をぶつけた音)


 といった具合にお高そうな刀をボコボコにしていく始末……。


 私がヘトヘトになりながらルゥに何とか追いつき、

「ルゥ……ハァハァ、ちょと……ハァ、待って」

 まったく………体力お化けが……」

 と言うと、

「ん? なあに?」

 と清々しい顔で振り向く。


こっちの苦労も知らないで……。


「ハァ……ハァ……」

 その場で少し休んで、軽く息を整えてから、

「『ん? なあに?』 じゃねーよ!ヘトヘトになりながら自分を追いかけている私を見ても何も感じないんか!」

 ガッツリ心の声が漏れた。


「え? その口調……」

 今までの私の口調との違いにルゥが困惑している。


「………」

 とりあえず沈黙で誤魔化す。


「え、えーと……今のは、気にしないで……」


やってしまった……。


 怒ると口調が悪くなる癖、昔からとれてないな……。


気にしないでなんて言ったけど、そんなの無理に決まってるし……。

なんて言い訳しようか……。



――なんて考えていると、ルゥが、

「うん! わかった!」

 と元気な声で言った。


 ルゥ……お前が天然でよかったよ……。


「あ! スライムめ~っけ!」

 安堵も束の間、それだけ言ってルゥは走り去ってしまった。

 


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