侵蝕する瘴気……。
私たちは今、ギルドの地下にいる。
そこには、木でできた人型の的が数個だけがある。
ここで試験官を待つように、と受付のお姉さんに言われたのだ。
「いやぁ~、でもよかったな~。受付のお姉さんが驚いていたからカトレアがランクAかも、って思ったけど、ランクFで」
ルゥは、さっきからずっと私のことをいじってくる。
さすがにしつこい……。
「うるさい。それと、ランクFじゃなくて測定不能だから」
と、私が訂正すると、
「えー、でもー、ライセンスには魔力ランクFって書かれるんでしょ?」
とか言い出してきた。
しかも、ニヤニヤした顔で……。
純粋にうざい……。
とかいうやり取りをしていたら、ガタイのいい男の人が入ってきた。
「おいおい~魔力測定不能のやつが来たっていうからどんな奴かと思えば、可愛い小娘じゃねぇか」
小娘……。
「おじさんが試験官って人?」
とルゥが訊く。
「あぁ、そうだ。俺がお前らの実技の試験官を担当することになった、ライラックという」
ライラックさんが簡単な自己紹介をすると、続けて、
「お前らのことは聞いているぞ。早速だが実技試験を開始する」
と言った。
「実技試験って何をするんですか?」
と私が訊くと、
「簡単なことだ。あそこにある的に自分の全力の技を的を壊す気で打ち込むだけだ。な? 簡単だろ?」
と、木でできた人型の的を親指でさしながら説明してくれた。
壊す気でいいのか……。
「そんじゃ、早速だがやってみてくれ」
というものだから、
「わかりました」
そういって私は歩いて的に近づいていき、足で地面をトン、と踏みつける。
すると、地面から水しぶきのように、黒い何かが現れる。
「≪
と小さい声で言いながら私が的を指さすと、黒い何かが弾丸のように一斉に的に飛んでいく。
――的は穴だらけになった。
「こ、こりゃ驚いた……。本当に壊す奴ぁ初めて見た……」
とライラックさんが言ったところで、的が穴が空いた部分から徐々に黒く染まっていってやがて朽ちたように根本から倒れる。
腐ったのだ。
「なんだなんだ? 何をしたんだ?」
とライラックさんが驚きながら聞いてくる。
ルゥはキラキラした目で、
「すごい!」
と言ってくる。
相変わらず……。
というか、さっき「本当に壊す奴は初めて見た」って言った⁉
これは、目立ってしまったのでは……。
「あの、私が的を壊したことは誰にも言わないでください……」
念のためそう言っておく。
「お、おう……」
まさに心ここにあらずという感じだった。
すると急に、
「次は俺がやる!」
と、ルゥが大声で言った。
「お、お前まで的を壊したりしないよな……?」
と、汗を流しながらライラックさんが言う。
私が的を壊せたから、その連れであるルゥも的を壊せると思っているらしい。
「俺はあんなすごい技使えないよー」
そりゃぁ、ついこの間まで奴隷だった人ができるわけがないだろう。
そういいながらルゥが的の前まで歩いて行き、無言で鞘からこの前渡した刀を引き抜くと、大きく振りかぶり、
「えい!」
と言いながら振り下ろした。
傍から見れば、基本も何にもなっていない。
まるで子供の遊びのように見えた。
当然、木でできた人型の的なんで切れるわけがない。
……と、思っていた。
――見事に真っ二つに切れた木の的がそこにはあった。
「え⁉」
さすがにこれには驚かずにはいられなかった。
「お、おいおい兄ちゃん。こ、壊せねぇんじゃねぇのかよ……」
とライラックさんも目を丸くしている。
もしかしたら的が腐っていたため脆くなっていたのかもしれないと思い、歩いて的まで近づき確認したが、腐ってなどいなかった。
そこで気になったことが一つ……。
断面がガタガタなことだ。
ということは、ルゥ……力で無理やり切った……?
なんという馬鹿力か……。
これは武器をすぐダメにするな……。
いい武器、あげなきゃよかった……。
「あ、あの、私たちが的を壊したことは絶対に、誰にも言わないでください!」
少し慌てた様子で勢いよく頭を下げる少女の声が地下室に反響した。
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