第3話 アスター -甘い夢-

「じゃあ…ハルカの家に…行こ?」


 優璃はお互いの息が当たるくらいにまで顔を近づけてそう言う。


「俺達まだ出会って2日目だぞ…流石に女の子を自分の家に入れるなんて…」


 俺は間近にある優璃の顔から目を逸らす。

 恥ずかしかったのか、優璃の意見を否定する事を表したかったのかは自分でもわからないが。


「なぁに?もしかしてえっちなコト考えてる?」

「ち、違うっての!」

「そうだよねー…ハルカも男の子だし、凪葉とあんな事やこんな事、シたいもんね?良いんだよー?僕は」


 全力で否定する俺を弄ぶように優璃はニヤニヤと笑って俺を見上げながらそう言うと、胸元を露骨にチラ見せしてくる。

 俺は魔がさして、横を向きながら瞳だけを優璃の胸元を覗こうとしてしまう。

 …高校生のものとは思えない、可愛らしいブラでした。


「見たいなら素直に見れば良いじゃん」

「別に見てねーし」

「僕は見逃さなかったぞー?目だけは僕の胸見てたでしょー?」


 どうやらバレていたようだった。


「…優璃が言うように、俺も男の子だからな」


 俺はそう言うと、突然優璃は胸に手を当てて顔を赤くして、俯いてしまった。

 …あれ、これってまさか。


「…本当に見てたんだ…えっち…」


 どうやらバレているのは出任せのようだ。

 散々自分から胸元チラ見せしておいていざ見られると恥ずかしがるって、一体何がしたいんだ。

 なんだか不覚にも、そんな恥ずかしそうな優璃が可愛く思えてしまった。

 そして更に、


 ぐぅ〜。


 優璃の腹の虫が泣いた。

 その音は辺りに鳴り響き、俺の耳にも聞こえた。


「あっ」


 優璃はお腹を押さえる。


「お前まさか…俺の家に行きたいのって」

「うぅ…今日両親が帰ってこなくて、朝からご飯食べてないの…」

「そんなの自分で作りなさいよ…」


 まぁ、親からお金を貰ってその日の食事をやりくりしている俺が言えたことではないが。

 バイトをすればそんな必要もないが、俺にはもう…無理だ。


「僕料理出来ないの!もーっ、恥ずかしいから言わせないでよっ!」

「お前が勝手に言ったんだろ…」

「と、とにかく色々な訳があるから君の家に行きたいの」


 優璃は息を整えて、いつものクールキャラに戻ってそう言う。

 …が、目の前で勝手に胸元見せて恥ずかしがった挙句にお腹減ってるのバレて自分から料理が下手な事を宣言して更に恥ずかしがってる時点で、クールもクソも無いが。


「はぁ…わかったよ。多分カップラーメンしか無えけど」

「うん!」


 ため息を吐いて、補足を付けて仕方なくそう言うと、優璃は嬉しそうに目を輝かせて頷いた。

 そしてここから俺の家に向かう道中、隣でずっと優璃が鼻歌を歌っていた。

 その時の俺達の姿は、何も知らない人から見れば完全にイチャついているバカップルだろう。

 

 バカップル、という単語でふと思ったことが一つ。

 俺と優璃はもちろん、付き合っている訳ではないが、優璃は度々“僕を凪葉だと思って、凪葉としたかった事をしても良いよ”的な言葉をよく使って俺と関わろうとしてくる。


 実は俺の事が好きなのかもしれない、なんて自意識過剰を晒す訳ではないが、優璃のその行動原理は一体何なのだろうか。

 そう考えると、優璃が凪葉と瓜二つなのも何かしら意味があるのではないか、なんて思ってしまう。

 まさかドッペルゲンガーという奴なのでは、とは思ったが、彼女は自身をあくまで“黒月優璃”と名乗っているし、それは無いだろう。

 

 “俺が凪葉としたかった事”の為なら、自分の身体ですら俺に捧げようとする優璃の行動原理が一切わからない為、少し恐ろしく思えてきてしまった。

 あれは流石に冗談だとは思うが、何故そこまで出来るんだ?


「ここが君の家?」


 優璃にそう言われ、俺は我に帰った。

 結局疑問が頭に残ったまま、どうやら俺は自宅へと到着してしまっていたようだった。


「あ、あぁそうだよ」

「なら早く早くぅ、お腹すいたー」


 優璃は俺の身体を掴み、揺らしてくる。

 まるで駄々を捏ねる子供のようだ。

 はいはい、とめんどくさそうに俺は玄関の鍵を開錠し、優璃を家内に案内した。


 〜


「ふー!ご馳走様!ハルカって料理上手だね!」


 俺がわざわざ作った料理を平らげると、優璃は俺を褒め称える。

 

「…そうか」

「何で嬉しくなさそうなの?」

「だってお前に作ったの、ただの目玉焼きとスクランブルエッグだぞ…」


 俺の中で、目玉焼きって油引いたフライパンに殻を割って直接落として蓋すれば出来るもんだと思っているのだが、優璃はそれすらも出来ないのか?


 そもそも、何故料理を作ったかというと、偶然にもカップラーメンを切らしており、冷蔵庫の中にこれを使って下さいと言わんばかりに大量に卵が入っていたので、卵料理を振る舞ったという訳だ。


 因みに卵焼き…厚焼き玉子は綺麗に巻けないので作っていない。

 優璃からすれば別に綺麗である必要はないだろうし、俺自身も食べられればどうでも良いだろと思っていたが、最初に目玉焼きとスクランブルエッグという誰でも綺麗に作れるものを作ってしまったせいで、勿論その2品は綺麗に作れたのだ。


 綺麗な料理を2品、その後にクソ汚ぇ厚焼き玉子出てきたら食べる気も失せてしまうだろう、という考えで止めたのだ。そういう事にしてくれ。うん。まじで。


「え、スクランブルエッグはともかく目玉焼きってこんな綺麗に出来ないよ!」

「いや油引いてフライパンに入れて蓋するだけだろ…あぁ、蒸すために水も入れるか」

「あぁ、油!」

「お前マジかよ!?」


 何“君天才か?”みたいなリアクションしてんだコイツは。

 料理するにあたって油は当たり前だろ。

 調理実習とかで何を教わってきたんだ。


「ま、まぁちょっとくらい料理出来なくてもいいじゃん」

「まぁ…な…」


 確かにこの現代において、一人暮らしで料理出来ない大人なんて沢山いるし、じゃあその大人が何も食べられずに苦しんでいるかと言われればそういう訳でもない。

 今の時代は電子レンジさえあれば何とかなってしまう時代である。


「じゃあ美味しい料理食べさせてくれたし、お礼しないとね…?」

「お、お礼?」


 そう言うと、優璃はニヤニヤと悪巧みをするように笑いながらこちらに歩み寄る。

 俺は嫌な予感がして、まるで森の中で熊にでも遭遇した際の対処法のように後退りをする。

 しかしここは家の中でそこまで広くない。

 すぐに壁に当たってしまい、逃げられなくなってしまう。

 それでも徐々に優璃は歩み寄る。

 そして俺との距離が手の届く範囲まで迫ると、優璃は両手を広げて俺に詰め寄った。


「ぎゅーっ」

「…え?」


 何をしでかすのかと思いきや、優璃は俺の身体を抱きしめた。

 これが、お礼とでも言うのだろうか。

 まぁでも確かに簡単な卵料理を振る舞っただけだし、抱きしめられるくらいなら…


「ずっと1人で、寂しかったんだよね」

「…!?」


 優璃が突然発したその発言は、まるで俺の心に針を突き刺したようだった。


「両親の愛も与えて貰えなくて…凪葉もいなくなって、寂しいって言える相手も居なくて、1人の方が楽だなんて無理をして強がって来たんだよね?」

「何を…言って」

「でも…ね、これからは僕が君のそばに居てあげる。だからもう我慢する必要は無いんだよ」


 寂しい事には、慣れたつもりだった。

 俺には戦吾という友達もいるし…あとは…あとは…。


 …あれ、全然居ない。


 どうしてだ、凪葉も母親も父親も居たはずだ。なのにどうして今は居ないんだ?!


 俺は、独りだ…。 


 戦吾とは明るく振る舞いたいし、あまり暗い雰囲気にはなりたくない。

 だから寂しいなんて言えなかった。

 だから結局、慣れたとかほざいて強がるしかなかった。

 別に親の愛が欲しかった訳じゃない。友達が欲しかった訳じゃない。彼女が欲しかった訳じゃない。


 ただ、誰か居て欲しかった。


「お前に何がわかるんだよ…昨日俺と出会ったばかりの、お前に…!」

「言ったでしょ、全部君を見てたって」

「そんなもん…信用出来るかよ…!」


 俺は鼻をすすりながらそう言う。

 急に現れて、実は全部見てきましたなんて言われたところで信用出来るわけがない。


「しなくても良いよ…。僕は偶然にも凪葉と似てる…だから、君が凪葉としたかった事を僕がして君を心の底から楽しいって思わせたい…それが、僕のしたい事だから」

「何でそこまでして俺を心の底から楽しませようとするんだよ…こんな俺に!」


 俺は溜まっていた鬱憤を晴らすように、優璃に強く言ってしまう。


「…僕がしたいからって、言ったでしょ?」

「本気なのかよ…?」

「本気」


 その目は、確かに嘘一つない真っ直ぐな目だった。

 単純にそうしたいからしているのか、訳あってそうする必要があるからなのかはわからないが、どちらにせよ俺を楽しませたいという事は本気のようだ。


「でも俺は…多分お前を好きになれない」

「どうして?」

「…凪葉と似てるお前が怖いんだ」

「そっか」


 こんな理不尽な理由でも、優璃はそれ以上は聞かずに優しく受け入れてくれる。

 どうして凪葉と似てるから怖いのかは、優璃が仮に俺と付き合ったとして、凪葉と同じような別れ方をしてしまうのではないか、と思ってしまうからだ。


「でも、僕は椎名凪葉じゃなくて黒月優璃だから」

「…凪葉だと思って接しろって言ったのお前じゃん」

「えへ、そうだったね」


 優璃は無邪気に笑った。

 その笑う顔も、凪葉と似ていてとても可愛らしかった。

 なのに、こんなにもドキドキしないのは何故なのだろうか。


「いや、いつまで抱きしめてんだよ」

「ん、もうちょっと…ほら、ハルカも僕の温もり感じてよ」

「変な言い方すんなよ…」


 とは言いつつも、確かに優璃の身体は温かくて離したくない。

 だがここで俺が抱きしめ返すのも恥ずかしいので、俺はずっと抱きしめられている状況という訳だ。


「ねぇ、今日は両親帰ってこないの?」

「え?多分帰ってくると思うけど」


 その続きを言いかけた時だった。

 狙ったのではないかと思うくらいのタイミングでポケットに入っているスマホから通知音が聞こえてくる。

 優璃は空気を読んで俺の身体から離れると、俺はスマホを取り出して通知を確認する。

 両親からだった。

 因みに両親は共働きで、同じ会社に勤めている。

 つまり母親か父親が残業にでもなったのなら、その片方も残業になるというわけだ。

 そして肝心の内容は。


『今夜帰れません』


「…」

「誰から?内容は?ねぇ?」


 優璃が次々と質問してくる。

 俺は優璃の方にゆっくりと顔を向けて、恐る恐る口を開く。


「今日両親帰ってこねえわ」

「じゃあ、今日泊まっていい?」


 優璃は手を合わせて申し訳無さそうにそう言う。

 正直、絶対言われると思った。

 今日は優璃の両親が家に帰ってこないらしく、よりにもよって俺の両親も帰ってこないようだ。

 となると、ただでさえ家に上がり込んでいる優璃が俺の家に泊まろうと言い出すのは必然である。

 いや、別に泊まる分にはいいんだが、生憎俺は独りっ子の為、空いている部屋などは無い。

 かと言ってリビングにも、ましてや親の部屋に優璃を寝かせるわけにもいかない。となると当然俺の部屋で寝る事になる。

 まぁ、最悪俺が床で寝れば良いか。


「…今日だけだぞ」

「やったー!」


 優璃は子供のようにぴょんぴょん飛び跳ねてそう言う。

 先程までの険悪な雰囲気はどこへやら。

 

「じゃあシャワー借りていい?」

「ああ…良いけど着替えはどうするんだ?」

「ハルカの服借りるよ」

「マジで言ってんの…?入るかな」

「多分大丈夫!」

「…じゃ、後で持っていくよ」


 そう言うと、優璃は機嫌が良いのか鼻歌を歌いながら脱衣所を探し始める。

 俺はすぐに案内して脱衣所の扉を閉めると、私服が入っているクローゼットを漁って少しサイズの小さい服を探す。

 すると、灰色の少し小さめのパジャマを見つけた。

 これは俺が中学生の頃に着ていたパジャマで、特に柄もついてなくてシンプルだし、女の子が着ても何の問題も無さそうだ。


「これにするか」


 俺は灰色のパジャマを取ると、それを脱衣所へ持っていく。

 扉をノックして、優璃が風呂場に入っている事を確認すると、扉を少し開けてパジャマを投げ込んだ。


 あれから数十分ほど経った後、優璃が風呂場から出てきた。


「はぁ、気持ちよかった〜」

「おう、出たか…っ!?」


 俺は風呂から出た優璃を見ると、当然だが俺の昔着ていたパジャマを着ていた。

 どうしてだろうか、俺が着ていたものと全く同じもののはずなのに、優璃の身体のラインがほんのり見えて少し魅惑的だった。


「ねぇ、このパジャマちょっと小さくない?」

「すまん、これしか良いのがなくて」

「そっか…じゃあ仕方ないね」


 そう言うと優璃は俺の隣に座って、身体を寄せる。

 風呂から出た後だったからか、優璃の身体は先程よりも更に温かかった。


「さ、さて、料理でも作るか!」


 俺はなんだか恥ずかしくなって立ち上がると、そんな事を言い出してキッチンへとそそくさ走っていき、冷蔵庫を開けて食材を確認する。

 とはいえ、卵が大量にあるので卵料理が主になるだろうが…ずっと卵ばかりだと飽きるだろうし、無難に野菜炒めでも作ろうか、なんて今日の献立を頭の中で考える。


「ねぇ、そういえばブラジャー無かったんだけど」

「ブフッ!!」


 俺は吹き出してしまう。

 確かにそうだ、優璃は女の子なのだからブラジャーを付けるのは当たり前だ。

 俺は男なので当然ブラジャーを付ける習慣が無く、完全に忘れていた。

 ということは、今優璃はノーブラ…?!


「まぁいっか」

「良くねぇよ!?」

「なんで?ここには僕とハルカだけだし良いじゃん」

「だからだよ!」

「えー?…あっ、そっかぁ…ハルカまーたえっちな事考えてるぅ?」

「違うから!とにかく後で母親の持ってくるから!」

「はぁい…」


 優璃は何故か嫌そうな顔でため息混じりにそう言う。

 確かに普段あんな可愛らしいブラを付けている優璃からしたら、俺の母親のおばさん臭い(ていうか見たこと無いからどんな柄か知らないので半ば偏見ではあるが)ブラなど付けたくないだろうが、そこは我慢してくれとしか言えなかった。



「今度は何をご馳走してくれるの?」


 優璃はテーブルに座り、まだかまだかと俺の料理を待っている。

 その姿は本当に子供のようで、なんだかシングルファザーにでもなった気分だった。


「何にするか…てか何でこんなに卵あんだよ」

「僕は好きだよ?ハルカの卵料理」

「誰でも作れるスクランブルエッグと目玉焼きしか食べてないのによく言えるな」

「だって、僕料理出来ないから」

「自慢げに言うな…」

「ま、とにかくハルカの作る料理ならなんでも美味しいと思うよ」

「そうか…」


 たった2品、それも簡単なものしか作ってないし食べてもらっていないので、褒められても正直説得力が欠如しているはずなのに、何故か照れくさくなってしまう。

 俺は頭を掻いて気を紛らわすと、今日の献立を考える。

 とは言え、普段料理しない故に何も思いつかないのでスマホを手に取り、簡単で美味しそうな卵料理は無いかと探してみる事にした。


「…これだな」


 今日の献立を決めると、俺は材料を取り出す。

 卵、冷や飯、ネギ、醤油、油。

 本当はウィンナーとかあれば良かったんだが、無かった為かなり簡素で素朴になってしまうがまぁ良いだろう。


 まず俺は油を引いて、フライパンを温めている間にネギをぎこちない手つきで切り刻む。

 そして切り刻んだネギをフライパンに入れ、その後に冷や飯と溶き卵をぶち込み…卵かけご飯みたいにして入れれば良かったと後悔しながら、炒める。

 火が通ったらご飯等を寄せて、何もない場所に醤油を垂らし、焦がし醤油にするとそれとご飯を共にかき混ぜながら炒める。

 なんとなく刻みニンニクを入れてみて、更に焦がし醤油を足して味を調整。


「出来たぞ」


 完成した料理を皿に盛り付け、料理を待つ優璃のテーブルの前に置く。


「お、良い匂い!」

「チャーハン作ってみた。初めてだから味は保証できないけど」


 俺は保険をかけて言う。味付けは焦がし醤油とニンニク、香り付けにネギという何とも味の濃いものがない為、どうしても薄味になってしまっているだろう。

 すると優璃はスプーンを手に取り、俺の作ったチャーハンを頬張る。

 俺は無意識に優璃の顔を覗き込む。


「んー!美味しい!やっぱりハルカは料理の才能あるよ!」


 優璃はまるで世界一美味しい食べ物でも食べたかのような満面の笑みでそう言う。


「そうか…美味いなら良いよ」


 とは言いつつ、内心俺は胸を撫で下ろす。

 別に初めて作ったし“美味しくない”と言われても仕方ないなとは思うが、やはり美味しくないよりも美味しいの方が嬉しい。


「ねえ、ハルカも食べよーよ」

「あ、うん。ちょっと待ってて」


 そう言って、自分用の皿にチャーハンを盛り付けると俺もテーブルに置いて食べ始める。


 うん、普通だ。


 可もなく不可もなく、本当に普通の味。

 美味すぎず不味すぎず、店で出されたら2度と注文しないくらいだ。

 だと言うのに、優璃は大好物のようにどんどん頬張っていく。

 今まで何を食わされてきたんだと心配してしまうほどに。


「ハルカ」

「何?」

「はい、あーん」


 優璃はスプーンに盛られたチャーハンを俺に差し出している。

 …これも、“凪葉としたかった事をさせてあげている”という奴なのだろうか。

 たまには、いいかな。


「あ…あーん」


 俺は照れながらも口を開いて、チャーハンを口に運んでもらう。

 …味は変わらない。


「どう?美味しい?」

「お前が作ったみたいに言うなよ…まぁ、美味しいけど」

「そっか、じゃあ一緒に食べよっか」


 その後、俺達は黙々とチャーハンを食べた。

 実は、途中で分量を間違えて作り過ぎてしまったのだが、優璃が何回もおかわりをするのでフライパンはすっからかんになっていた。


「ご馳走様!」

「じゃあ風呂入ってくる」

「えー、食べた後すぐお風呂は駄目だよ、お腹の消化悪くなっちゃうよ?」

「そうなのか?」

「うん。最悪の場合心筋梗塞とかにもなるんだよ」

「マジかよ…知らなかった」

「だからさ、もうちょっと一緒に居よ?」


 そういうと、優璃は隣の椅子をあたかもここに座れと言わんばかりにぽんぽん叩く。

 俺はため息を吐いて頭を掻く。


「…わかったよ」


 そう言い、俺は優璃の隣の席に座る。

 すると、優璃は俺に寄りかかってくる。


「重い」

「重たくないよぉ…」


 優璃は弱々しくそう言う。


「お前…まさか眠いのか?」

「うぅん…美味しいご飯食べたら眠くなってきちゃった…」

「そっか…じゃあ俺の部屋に連れてくか」


 そう言って立ち上がって優璃を俺の部屋に案内しようとすると、優璃は俺の服の裾を摘んでくる。


「…おんぶ」

「は?」

「…眠いからおんぶして」


 優璃は子供のように、そして子供のような理由を言う。

 とは言え、ここで断ると何をしでかすかわからない為仕方なく…そう、仕方なく優璃を負ぶって俺の部屋のベッドに寝かせた。

 その頃にはもう、優璃は眠りについていた。


「…おやすみ、優璃」


 そう言って、俺は部屋の電気を消した。

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