第47話 最後のリベンジマッチをする話


 金ぴか鎧がトレードマークだった冒険者、ビーン。


 俺達を中ボスラッシュの罠に嵌め、そしてあの岩窟ダンジョンでヴァニラに返り討ちにされた男だ。その際に利き腕を失うという、冒険者生命を失うほどの重傷を負っていたはずなんだが……。



 しかし、コイツ。応急処置はしてやったとはいえ、良く生還できたな。よく見ればヴァニラに破壊された金ぴか鎧もなぜか元に戻っているみたいだし……。



「クヒヒヒ。テメェらのその驚いた顔を見ることができただけでも、死ぬ気で生き抜いた甲斐があったぜ」


 いったい何が楽しいのか。失った腕の切断面を撫でながら、その腕をぶった切った本人であるヴァニラ見てニヤニヤと笑った。



「おい、ヴァニラ。あんま気にするな――」

「……?」

「って、心配は無用だったみたいだな……」


 いくらダンジョンに操られていたとはいえ、人間の腕を斬っちまったんだ。多少は気にしているかと思ったんだが……そんな事は全く無かった。ただただ眠そうに、ふわぁと呑気に欠伸をしていた。


 まぁ、襲ってきたのはビーンの方だしな。自業自得っちゃ自業自得だし、ヴァニラが気にする必要もないか。



「おい、良いからコイツらをどうにかしろ! 我ら教会に歯向かったらどうなるか、お前も知っているだろうが!?」

「へいへい、分かってますよボス。――ったく。恐ろしいところに借りを作っちまったもんだぜ、俺様もよぉ……」


 太りまくった豚司祭にドヤされ、ビーンは軽く嘆息する。そして首をコキコキと鳴らしながら、俺達の前に出てきた。右手には黄金色に輝く剣を持っている。どうやら、独りで俺達の相手をするつもりらしい。



「なんだ? そんな片腕の状態で、俺達に敵うとでも思っているのか?」

「ふん。俺様もさすがに、あの一件で学んだぜ。格上に対していきなり飛び込むような無茶はしねーよ。――だが、それが本当に格上相手だったらな」

「なに――!?」


 突然、ビーンから今まで感じたことのないほどの魔力が爆発した。

 それは思わず斬られたかと錯覚するほどの、鋭い殺気が込められた圧力だった。


 危険を感じた俺はすぐさま、後方へと飛びずさる。

 ミカやヴァニラは後退こそしなかったものの、さすがに戦闘態勢に入らざるを得なかったようだ。いつでも仕掛けられるよう、武器に手を掛けて警戒をしている。



「お前ら、俺様がどうやって生還したか気になっていたよなァ?」


 こちらの動揺は知ってか知らずなのか。明らかに人数でも実力でも不利な状況であるにもかかわらず、ビーンは余裕の表情を浮かべていた。



「ダンジョンの最奥に取り残されちまった可哀想な俺様は、同行していた教会の奴らに回収されたんだ。そいつらに運んでもらって、地上へ戻ることができたんだよ」


 そう言えばコイツ、教会から借りてきた冒険者と一緒に居たな。

 途中で姿が見えなかったし、ビーンを見捨てて逃げたのかとも思ったが……成る程。監視役も務めていたってことか。もしかしたら、俺達のこともどこかで見られていたのかもしれないな。



「クク、運が良いと思っただろ? だがな、お前らがダンジョン報酬を持って行っちまったせいで、俺は借りていた金と装備、その他諸々の負債を取り立てられちまったんだ。お陰で俺様は……いわば教会の奴隷なワケよ」

「ふんっ、ざまぁないですね。それでも命が助かっただけ、喜んだらどうですか?」

「おぉ、おぉ。つれねぇなぁミカ。まぁな、そのお陰でこうしてお前たちにも借りを返せる機会を得られたんだからよぉ。ちったぁ感謝してるぜ」


 チラ、と後ろに控えている豚司教を見て皮肉を言うビーン。その豚司教はいいからさっさとやれ、と鬼の形相になっていた。


 ははぁ、つまりそういうわけで教会の紐付きになったんだな。プライドの高そうなビーンが豚司教の言いなりになっているから、どうもおかしいと思ったぜ。


 いや、しかし。

 それで俺達に向かってくるのは、完全に逆恨みというやつなのでは?



「それに、今の貴方が私達に敵うとでも思っているんですか? それにここには、最強の魔法使いであるお姉ちゃんが居るんですからね!!」


 ミカは壁際でこちらの様子をビクビクと窺っているサリアを指差した。ビーンは一瞬ポカンとするが、すぐにそれを鼻で笑う。



「クハハッ、だからこの女が魔天なワケがねぇだろうが。コイツはただの、教皇サマのお気に入りの女さ」


 どういうことなんだ? ビーンほどの冒険者なら魔天の顔ぐらい知っているはずなのだが……。



「それに、言葉の割に随分と俺様を警戒しているじゃねぇか。見ての通り、俺様は教会……教皇サマに新しい力を授けて貰ったんでな。お前らにだってもう負けねぇぜ?」


 何かするつもり――いや、すでに何かが起きている!?



「ビーン、お前……!!」


 突如、黄金の鎧に蔦のような模様が浮き上がった。

 そして心臓が鼓動するかの如く、ドクドクと脈動し始める。


 なんだ、この気持ち悪い鎧は……まるで生きているみたいだ。

 だがそれだけじゃない。ビーンの身体から発せられていた魔力が更に増した。



「クハッ、クハハハ!! どうだ、すげぇ力だろ? さぁ、そろそろ全ての決着をつけようぜぇ――」

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