第48話 役者が揃い踏みした話


「おら、どうしたんだお前ら。揃いも揃って、床で仲良くお寝んねか?」

「クッ……調子に乗りやがって……」


 脈動する黄金鎧を纏ったビーンは大聖堂の床に転がる俺達に向かって、吐き捨てるようにそう言った。奴の背後では、豚司教が意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。


 コイツ、鎧のお陰でマジで強くなってやがった。

 ヴァニラと同様のスピードやパワーに加えて、ミカの魔法も鎧で防ぎきるという反則っぷり。


 元々のビーンの実力からは想像もできないほどの強大な力だ。この鎧、教皇から貰ったとか言っていたが……いったいどんな国宝級のアイテムなんだよ。とんでもないモンを隠し持っていやがった。――どうにかビーンから奪えねぇかな。



「無念至極……サリアさえこっちについてくれたら……」

「お姉ちゃん……」


 ヴァニラが悔しそうに、壁際で終始傍観をしているサリアを睨む。ミカなんてもう、半分泣きそうな顔をしていた。


 理由は不明だが、サリアは相変わらずミカのことを他人だと思っているようだ。魔天と呼ばれた最強の魔法使いだったサリアがこちらに加勢さえしてくれれば、形勢も逆転するはずなんだが……。



 だが今はそんなことを愚痴っている場合じゃねぇ。

 このままじゃサリアを奪還するどころか、この場でコイツらに殺されちまう。


 それにまだ、キュプロの居場所を探せていない。

 ここに居ないとしたら、いったい何処へ行ったんだ……?



「――おや? 随分と我が城が騒がしいと思ったら。客人が来ていたのか」

「やべぇ、教会の騎士に見つかったか……?」


 声がした方を見ると、俺達がいた礼拝堂の入り口に人影が二つ現れていた。

 片方は青のローブを頭から被っていて顔が見えない。だが声の質からして、おそらく男だろう。


 そしてその隣にいたのは――



「もしかして……キュプロ、なのか……!?」

「ジャトレ君……どうして来てしまったんだい……」


 栗毛に眼鏡。くたびれた白衣のポケットに手を入れた猫背姿。

 間違いない、アレはキュプロだ。やはりここへ来ていたのか……!!



「キュプロさん!? それに――どうして教皇様と一緒に居るんですか!!」

「アレが……教皇だって……?」


 なんだって!?

 ミカの言っていることが本当なら、とんでもない大物が出てきやがった。


 オスカー教会の創立時から数百年以上もの間、トップの座に君臨し続けている正真正銘の化け物だ。その姿を見た者は、信徒ですらあまり居ないと言われているが……。



「ふふふ。よく見れば、随分と懐かしい面々も居るじゃないか。ねぇ、ジャトレ?」

「……はっ?」


 おい、ちょっと待て。どうして俺の名前を知っているんだ!?

 生憎だが、こっちは教会のトップに名前を覚えられるようなマネをしたつもりはないんだが。


 教会の聖女であるミカが報告したのかと思えば、彼女も驚いた顔をしている。


 うん……?

 彼女ではないとすると、豚司教が教えたのか……?



「あははは!! すっかり僕のことまで忘れてしまっているようだね」

「いきなり、何を……俺とお前はこれが初対面のはずだろうが……」」

「良かったじゃないか、サリア。君の願いは今も変わらず叶い続けているみたいだ」

「私の……願い?」


 サリアの願い……?

 なんだ、何を言っているんだコイツは。なぜサリアと教皇が俺を知っていることが関係してくるんだ?


 オスカー教皇は俺達の元へやって来ると、頭に被っていたローブのフードを背中に下ろした。同時に透明感のある白い長髪が、肩へサラサラと流れていく。


 驚くほど綺麗な顔だ。人形のように整っていて、同じ人間だとは思えない。こっちの心まで覗きこんできそうな、真っ黒な瞳が気持ち悪い。



「僕が説明する義理があると思うのかい?」

「お前が言い出したんだろうが!! ちゃんと説明しろッ!!」

「ジャトレさん、落ち着いてください! まだ戦闘中ですよ!!」


 んなこと言われたって、落ち着けるワケがねぇだろうが……!

 過去に会っていたはずのサリアの記憶が朧げなのも、何か理由があるのかもしれない。


 なにより、心がざわついて仕方がない。なにか、忘れちゃいけないモンがあった。そんな不安感が拭いきれない。



「ふふ。もしかしたら身体は覚えているのかな? キミと、サリアが恋人同士だったということを」


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