第23話 似た者同士が無自覚に想い合う話

 ※キュプロ視点です。



「ふぅ~、お腹がいっぱいだ。こんなに食べたのは生まれて初めてだよぉ」


 今日の晩餐は、ダンジョン制覇を祝った豪勢なものだった。優秀なシェフのお陰で、ボクは至福のひと時を過ごすことができた。


 今は後片付けも終わり、ボクたちはリラックスした時間を各々で過ごしていた。



「しっかし、凄いねぇ。なんだか、お貴族様みたいなお屋敷だ……」


 ジャトレ君が用意してくれた、ボクの為のお部屋。

 普段は使っていない客間だと言っていたけれど、それにしても随分ときらびやかだ。


 天蓋付きのベッドに、ふかふかのソファー。宝石が付いた燭台に金細工があしらわれたティーセット。

 勝手に風が出る魔道具まである。



「本当に何者なんだろうねぇ、彼は」


 ただの金持ちの道楽者とは思えない。

 名のある冒険者かと思いきや、ミカ君は違うというし。


 あまりにも謎が多く、そして秘密主義者だ。



「くひっ。まぁ、彼が何者でもいいけどね~ボクは。それよりも……」


 ボクが彼について、一番興味がある事。

 それは――



「あの不死の呪い。アレはボクの研究に大いに役立つはずだよねぇ。どんなダメージも一瞬で修復してしまうあの回復力。実に素晴らしい……あの力さえあれば、ボクだって……」


 あの不死性能があれば、神鳴りカミナリの耐久試験だって無限に可能だし、ボクの脳細胞も回復できる。


 そうしたら、研究の成果を発表できる!!

 ボクを馬鹿にした研究所の奴らだって、確実に見返せるはずなんだ!!



 ――ドンドンドン!!



「おーい、キュプロ? 居ないのか~??」


 おっと。つい考え事に夢中になってしまっていたようだ。

 家主であるジャトレ君がボクを呼んでいたみたい。



「どうしたんだい、こんな夜更けに」


 時刻はとっきに夜の10時を過ぎている。

 もう今日は疲れたといって寝ると言っていたじゃないか。


 んんっ? 待てよ……?

 もしかして、この時間にレディの部屋を訪れるってことは――



「まさか、夜這よばいかい!?」


 意外にも大胆な性格だったのかジャトレ君!?

 あれだけ女性には興味が無いなんて言っていたキミがかい?


 ミカ君というものがありながら!!

 いや、でもキミが望むのならボクも……



「何を言ってるんだ、お前は。ちげぇよ」


 ――なぁんだ。


 顔も良いしお金持ちだし、研究にも理解がある。だからちょっと良いかも、なんて思っていたんだがねぇ。


 残念、ざんねん。



「用って、わざわざ部屋を訪れてかい?」


 急ぎの用事じゃなきゃ、明日朝食を摂る時にでも話せばいい。

 それをしないってことは、何か理由があるんだろうか。



「あ、あぁ。ちょっと相談したいことがあってな」

「相談、ねぇ?」


 ほほう、相談かぁ~。


 これはちょっと意外だったなぁ。

 てっきりボクのことをまだ信用できないとか言って、何か情報を聞き出そうとでもしたのかと思ったんだけどねぇ。



「あぁ。今回のダンジョンアタックで痛感したんだがな。戦闘は殆どミカに任せっぱなしだっただろう? それがちょっと引っ掛かっててな……」


 うん? あぁ、たしかに。

 でもそれは彼女の魔法とアンデッドの相性が良かったからじゃないのかい。


 特に最後のロイヤルゾンビなんて、ジャトレ君にはどうしようもなかったと思うよ?



「つまりジャトレ君は、何かパワーアップする方法をボクに尋ねに来たってことかい?」


 なんだいなんだい。

 キミは金以外に興味ないなんて言っていたじゃないか。


 それとも、そう言ってもいられなくなってきたってことなのかな~?



「いや、俺のことは自分でどうにかするさ。そうじゃなくて、相談したかったのはミカの装備についてなんだ」

「ミカ君の……?」


 ちょっと要領が掴めないなぁ。

 ミカ君は呪いで装備ができないだろう? それなのに装備の話なのかい??


 いや、正確に言えば装備をすると弱体化するという呪いだが。

 そういう理由から彼女は、ローブと杖以外に装備はしていなかったはずだ。



「たしかにミカは装備ができない。だけど他の人間がフォローするのはどうだ?」

「他の……フォロー?」

「あぁ。例えばシールドを張るとか、魔法でアイツを支援するといったアイテムはどうだ?」


 ……ははぁ。そういうことかい。

 結局キミは、彼女が傷付かないようにどうにかして守りたいってことなんだね?



「うーん、不可能ではないよ。これから作ろうとしているジャトレ君の装備と同じ原理を使えば、道具に魔法を付与することはできるからね」


「本当か!?」


「もちろん、それなりの素材が必要になってくるからね。良いものにしたいのなら、キミに調達してきてもらう必要がある」


「それなら任せろ! 俺が全部集めてくるぜ」



 やる気に満ちた顔でそう断言する彼。その決意に満ちた表情は、ちょっとだけカッコよく見えた。

 ミカ君に少しだけ嫉妬してしまいそうだよ。きひひ。



「じゃあ、頼んだぜ! あ、あとコレはミカには……」

「分かってるよ。秘密にしておくから、安心してくれたまえよ~」

「助かる! この恩はいつか返すぜ!」



 ジャトレくんはそう言うと、ホッと胸を撫で下ろした様子で部屋から退出していった。


 ふふふ。

 こんな風に頼られるのなんて久々だねぇ。

 でも他の女の子のためっていうのは……うん、やっぱり複雑だなぁ。



 ……まぁいいか。

 取り敢えずミカ君に合いそうなアイテムをピックアップしてから、今日は寝るとしよう。



 ――トントントン。



「ん? またジャトレ君かい? 心配しなくてもちゃんと――」

「キュプロさん。ミカです……まだ起きてますか?」


 あれ? 今度はミカ君??


 閉めたばかりのドアを再び開ける。

 するとそこには、パジャマ姿のミカ君が申し訳なさそうな顔で立っていた。



「こんばんは。すみません、こんな夜更けに」

「ど、どうしたんだい?」


 もしかしてさっきの会話を聞かれてしまっていたのかな?

 ヒヤヒヤしながらそう尋ねると、彼女は少し言いにくそうにしながら口を開いた。



「実は、ジャトレさんについてなんですが」

「きひっ!? な、なななんのことだい? ボクは別に何も聞いてないよ?」

「――? まだ何も言ってませんよ? 今回のダンジョンアタックでのことなんですけど……」


 え? ダンジョンアタック?

 あぁ、いや……なんだかボク、同じような話を聞いたばかりな気がするよ……?



「本人はあまり気にした様子は無かったんですけどね? なんだか活躍できなかったことを気にしていたみたいですし。博識なキュプロさんならもしかして、何か良い方法を御存知じゃないかなって……」



 はぁ。まったくこの二人は。


 ジャトレ君もミカ君も、自分の目的にしか興味が無いみたいに装っているけどさぁ。

 本当に興味が無かったら、互いにここまで気を遣わないだろうに。



「あの、お願いできませんか……?」

「はぁ。仕方がないねぇ……」



 ボクは似たもの同士の二人を微笑ましく思いつつ。

 目の前の恋する乙女の為にも、一肌脱ぐことを決意するのであった。


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