第3章 亡者も歩けば宝玉に当たる?
第22話 亡者の屋敷にマッドな研究者が同棲することになる話
ダンジョンから帰還した俺たちは、屋敷の食堂で
「まさか、ボクの家に強盗が入るとはねぇ~。きひひ……」
キュプロはそんな事を呟きながら、ミカが淹れたハーブティに口を付ける。
口では笑ってはいるが、カップを持つ手はわなわなと震えている。
コイツがここまで動揺しているって相当だな。
研究データが盗まれた挙句、家が燃やされてしまったのだから、それも当然か。
「まぁ、これも何かの縁だ。キュプロも当分の間、我が家に住めばいいさ」
「本当に助かるよ……はぁ」
遂に溜め息まで吐いちまったよ。
こりゃ重症だなァ……。
「ちょっと、ジャトレさん!? 私の時はあんなに反対したのに、どうしてキュプロさんはそんなにあっさり受け入れちゃうんですか!!」
夕飯の支度をしていたのだろう。何かの骨付き肉と包丁を持ったミカが「せっかく二人っきりの同棲生活が始まったばっかりだったのに!」と、キッチンの方から叫んだ。
いや、お前は自分がここへやって来た時のことを思い返してから言えよ。
命と金を奪いに来た奴を、いったいどこの誰が歓迎するっつーんだ?
「念のために言っときますけど。ジャトレさんの所有権はあくまでも、私にあるんですからね? 命から財産までぜーんぶです! 何か一つでも奪うつもりでしたら、誰であろうと私が相手になりますから」
「きひひひ。おぉ、こわいこわい。ジャトレ君は相当ミカ君に愛されてるんだねぇ」
いやいやいや?
これのどこが愛されているっていうんだ?
完全に俺のことを、教皇へ捧げる
「ともかく、俺の装備の強化の為にもキュプロは必要なんだ。当然要るモノだって出てくるだろうし、俺らがサポートするしかねぇだろう?」
「それはそうなんですけど――」
「まぁまぁ。ボクはあくまでも、少しの間だけ居候するだけだから。ミカ君も安心したまえよぉ」
「……本当ですかぁ? まぁ、それならジャトレさんをシェアするのを許可します」
それもおかしいと思うんだけどなぁ……?
どうして俺が二人の共有物になってるんだ?
しかしキュプロの研究所が燃えちまったのは痛い。せっかく俺の武器を改造してもらうことになったんだがなぁ。
「呪いで記憶が無くなる前に、できるだけ研究に必要なことを書き残しておくよ。その間に二人には準備をして貰おうと思うんだ」
「分かった。それについては、あとでまた相談しよう。取り敢えず今は腹ごしらえだな」
「ふふふ、そうだね。ミカ君の料理の話を聞いて、ボクも楽しみだったんだよぉ~」
すでにキッチンの方からは、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきている。
今日はちょっと奮発して、高級食材である牛鳥を丸々一匹購入してきた。
それをミカに調理してもらい、ダンジョン制覇の打ち上げをするのだ。
「はーい、お待たせしました! 牛鳥の香草丸焼きに、ナッツポテトのサラダですよ~」
「「おおっ!! 美味しそう!!」」
さすがは我が家の凄腕シェフ。
何をどうやったかはまるで分らないが、見た目からして豪華な御馳走がやってきた。
テーブルの上にデンっと乗せられたのは、角の生えた四足の大きな鳥だ。
こんがりとした黄金色の焼き色がつけられ、更に上からソースが掛かっている。
買い出しの時に色んな岩塩やら調味料を買っていたから、きっとそれを使ったんだろう。
付け合わせには、隣町の特産であるナッツポテトを使ったポテトサラダが盛られている。
これは人の背丈ぐらいの樹に実る芋で、ホクホクとした食感がウリらしい。
まぁ実際には食べたことはないので、今のは八百屋の店主の受け売りだが。
「すげぇな。さすがはミカだぜ」
「いやぁ、驚いたよ。ボクもここまで豪勢な晩餐は始めてだ」
「えへへ。ありがとうございます! さぁ冷めないうちに、いただいちゃいましょう!」
ナイフ……では肉塊を切るには小さ過ぎる。包丁を持って来て、大胆に切り分けることに。
「うおぉ、すげぇ。断面から肉汁があふれでてくるぜ!?」
「きひひひっ。さすがは最高級の肉と誉れ高い牛鳥だねぇ。ヨダレが止まらなくなりそうだよぉ」
赤味が残るように、繊細に火を通したんだろう。
美しいルビーのような色合いの肉が、ミカの手で次々とカットされていく。
「はい、どうぞ。ジャトレさんの分ですよ~」
「ありがとう、ミカ」
食べにくくない程度に厚くスライスされた牛鳥は、皿の上で食堂のシャンデリアに照らされて輝いて見える。
皿の脇に添えられたナッツポテトまで、まるで白い大理石の彫刻のように見えてきた。
ふひひひ。
なんだか食べるのが勿体ないぜ。
ミカの手で三人分の食事が綺麗に取り分けられた。
熱いうちに、さっそくいただこう。
「「「いただきます!」」」
よし、まずはひと口食べてみよう。
少し大きめにナイフで切り分け、フォークで口の中へ放り込む。
「……こ、これはっ!」
しっかりと噛み応えがある肉感。
それでいて筋張っていることも無く、簡単に噛み切ることができる。
もちろん、それだけじゃない。
ギュッと肉を噛みしめた瞬間。
いったいどこに詰まっていたのか、肉汁が爆発したかのようにドバっと溢れ出す。
その肉汁が口の中で広がると、脳が幸福感で満たされた。
俺は今、これまで食事をないがしろをしてきたことを酷く後悔していた。
いったいなんて勿体ないことをしてきたんだ!?
あまりの美味しさに、俺はしばらくの間、言葉を失ってしまっていた。
「「……」」
そしてそれは俺だけじゃない。
ミカやキュプロも同様だった。
巨大な牛鳥の姿が消えるまでの間。
ナイフとフォークを動かす音だけが食堂に響いていた。
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