第21話 ダンジョン制覇した三人が街に帰還する話


「う、どうなった……?」


 重たくなった目蓋を開くと、そこは先ほどと同じ墓地が広がっていた。

 しかしロイヤルゾンビの気配はどこにも感じられない。



「終わりましたよ、ジャトレさん。ゾンビ達は全員消し飛びました」


 うわ、結局最後までミカの魔法で一撃だったってことか。


 あっぶねぇ……。

 やはり俺なんかが喰らっていたら、存在ごと消滅しちまっていただろうな。



「う、ぐ……」

「まだ無理しない方が良いよぉ。今のジャトレ君の身体は、酷い有り様だからねぇ」


 俺の身体……?

 キュプロに言われ、首だけ動かして自分の身体を見てみる。


 ……あぁ、うん。こりゃ酷いわ。


 金属棒が刺さっていた傷口を中心にして、全身が黒く焼け焦げてしまっている。

 道理で身体が動かないわけだ。


 実際に喰らってみると、キュプロの『威神伝針いしんでんしん』は物凄い威力だということが良く分かった。



「よいしょっと……」


 仕方が無いのでさっさと回復することにしよう。


 宝玉から力を引き出すように、ギュッと念を込める。


 不本意だが、この作業も手馴れたもんだ。

 みるみるうちに損傷していた部位が修復されていく。



「すごいですよね、ジャトレさんの再生能力」

「――あぁ。いったいどういう仕組みなんだろうねぇ」


 あぁ、そうか。

 キュプロは俺の能力を初めて見るんだもんな。


 ……興味深げに俺の身体を観察しているのはいいのだが。



「どうして下半身まで覗こうとしてるんだ、お前は?」

「んんー? いやぁ、ここも不死なのかなと単純に疑問に思ったのでねぇ」

「キュプロさん、そこはちゃんと「その辺にしておけよ、ミカ?」……あとでお教えしますね~」


 まったく、コイツらは……!!



「……よし、こんなもんかな」


 おもむろに立ち上がり、身体についていた土を払いながら調子を確認する。


 痺れが少しだけ残っている気もするが、見た目はすっかり元通りだ。



「それで、ダンジョンの報酬はどうだった? 何か目ぼしいお宝はあったか?」


 俺の身体なんかよりもお宝だ。

 財宝か俺でも使える装備、もしくは珍しいアイテムでもあれば最高なのだが……。



「それが……」

「モノ自体は珍しいし、ボクは実用的だと思うんだけどねぇ~?」


 ミカもキュプロも苦笑いを浮かべている。

 どうやら当たりとは言い難い結果だったようだ。



「コレなんですが……」

「……? なんだ? 何かのペンダントか?」


 ミカが俺の目の前に差し出したのは、鎖のついた十字のアクセサリーだった。



「あぁ、キミは触れない方が良いよ」

「ん? どうしてだ?」

「見たところ、コレはアンデッドや闇の眷属をはらう力があるみたいなんだ」


 マジかよっ!?

 思わず伸ばしかけた手を引っ込める。

 近付けただけの指先が、シュウゥと紅い煙を上げた。


 ……危ねぇ。

 回復したばっかりなのに、また死に掛けるところだったぜ。



「……やはりですか。これは私の浄化魔法と似た力を感じます。きっとジャトレさんも触れるだけで、身体がね」


 ひえっ……。

 いくら再生できるからと言って、それは勘弁願いたい。


 あー、最悪だ。

 装備が手に入らなかった上に、俺が使えないアイテムだなんて。


 結局このダンジョンで得たものなんて、何ひとつ無かったじゃねぇか……。



「んん~? ボクと出逢えたじゃないかぁ? お宝なんかよりもずっと貴重な頭脳が手に……」

「あ、ジャトレさん。アクセサリーとは別に、こちらに宝箱がありますよ!」

「本当か!? 見せてくれ!!」

「入って……ってキミ達ぃ~!!」


 勝手にひとりでドヤってろ!

 宝の方が大事に決まってるだろぉが!!



 ミカに連れられて、あのロイヤルゾンビが埋まっていた場所へとやってきた。


「これが……」


 そこにあったのは、人ひとりが入りそうな大きさの宝箱だった。


 高鳴る胸(心臓はもう動いていないが)を抑えつつ、ゆっくりとふたを開ける。



「おおっ!!」

「金貨に銀貨……宝石もザックザクですよぉー!!」


 開けた瞬間、まばゆい光が俺を迎える。

 宝箱の中には、数え切れないほどの財宝がギッシリと詰まっていた。



「クックック……これだけあれば、当分の間は生き延びられそうだな……」


 少なくとも金貨が数百枚はある。

 これなら成果無しってワケにはならなさそうだ。


 さっそく俺は、自分の赤い宝玉に財宝たちを取り込ませる。

 呪いは最悪だが、この機能は非常に有り難い。



「これで……よし、と」


 箱の底まで綺麗サッパリ。

 ちり一つ無くなった宝箱は役目を終え、跡形もなくスゥと霧のように消えていった。



「結果的には、思ったよりも豊作でしたね~!」

「あぁ、このダンジョンが生まれてから初踏破だっただろうしな。そのおかげで報酬も多かったんだろう」

「これまでの感じでは中級かな? もしかしたら上級ぐらいかもですが」


 俺には良く分からないが、経験豊富なミカが新ダンジョンのランクを推察している。


 なんにせよ、今回のダンジョンアタックは成功と言っていいだろう。

 あとは無事に地上に戻るだけだ。



「よし、得る物も得たし。帰るか!!」

「はい!」

「ふぅ~、疲れたねぇ」


 すっかり仲間の一員となっているキュプロと共に、俺たちはこの新ダンジョンを後にした。



 ◇


 ――4日後。


 ダンジョンを制覇した俺たちは、無事にレクションの街へと帰ってきていた。

 キュプロもこの街に研究所を置いて住んでいるとのことで、ここまで一緒に来ている。



「それじゃあ、後でキュプロの研究所に寄らせてもらうぜ」

「あぁ。ボクも研究が進みそうで、今から楽しみだよ」


 あのアンデッド特効アイテムは、やはり俺の武器にはならなかった。


 また別のダンジョンに潜る必要があるのか……とゲンナリしていたのだが、思わぬところから救世主が現れた。



『そのアクセサリーを研究すれば、闇の眷属に対する武器が製造できるかもしれないよぉ?』


 キュプロのその一言が光明となり、新たな道筋ができた。

 今持っている宝剣、『月光の旋律』をベースとして、改造をしてくれるというのだ。


 彼女がやっている研究の中に、アイテムの能力を別のモノに付与するというものがあったのだ。どうやら神鳴りカミナリを発生させる道具を開発しようとしていたらしい。



「いやぁ、助かる。キュプロのお陰で、あの吸血女王ヴァニラをぶっ飛ばせそうだぜ」

「聞く限りではヴァンパイアクイーンも闇の眷属みたいだからねぇ。きっと切り札になるはずさぁ」


 そういうわけで、今後も俺はキュプロに世話になることが決定したのだ。



「ところで、その研究所ってのは何処にあるんだ?」


 この街に住み始めて俺も長いが、個人でやっている研究所なんて聞いたことが無い。

 聞けば自宅を改造して、実験用の部屋を作ったらしいが……。



「あぁ。この中央広場の西にある、飲食街の一角さ。ほら、あの煙が出ているあたり……あれぇ?」

「……おい、まさか」

「え? えっ、嘘でしょう……?」



 キュプロが指差したその先では、もうもうとした煙が上っていた。



「あちゃ~。ボクの家、燃えちゃってるねぇ……きひひ」



 煙の発生元は、轟々と燃え盛るキュプロの研究所であった。



 

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