第20話 囚われの亡者が身を挺しながらチームプレイをする話


 街の墓場ダンジョンに出現した新ダンジョン。

 その最深部、墓標が並ぶフロアに巨大なアンデッドが出現した。



「身体が……動かねぇ……!?」


 敵がアンデッドであれば、聖女であるミカの浄化魔法で片づけて終わり……そのはずだった。

 だがボスが出現してから、どういうわけか俺の身体が言うことを聞かなくなってしまった。



「ジャトレさん!? いったい、どうしたんですか!?」

「ミカ君。どうやら彼は身動きができないようだ……恐らく、原因はアレだねぇ」


 キュプロは長い白衣の袖から人差し指を突き出し、一点を指した。

 その先に居るのは地面から上半身だけ出している、超巨大なゾンビだった。



「アレはロイヤルゾンビ……!!」

「あの巨躯きょく、そして頭の王冠。ロイヤルゾンビで間違いないだろう。そして奴の能力とは――」


『ヴォアアアァア……』


『『『オボボボボッ』』』


 しまった、ゾンビの強制隷属か……!!


 これはマズイことになった。

 二人の言う通り、アイツがゾンビの王であるとするならば。種族的に下位のゾンビは全員配下となるはずだ。


 それにはリーダーゾンビである俺も含まれちまう。


「じゃあジャトレさんは……」

「今彼が動けないのは、王に支配されているからだろう。まだ完全には操られていないようだが……」



 二人が俺の方をチラ見してきたので、俺は全力で首を縦に振った。


 キュプロの言う通りだ。


『侵入者を――我らの眠りを妨げる者を排除せよ――』


 今も俺の頭の中で、あのクソったれなゾンビがやかましく命令してきている。



「ともかく、あの王ゾンビを倒さなくては。ジャトレ君もこのままではつらいだろう」

「分かりました! パパッとあのデカゾンビを倒しちゃいますね!!」


 さっそくとばかりに青色の宝玉が付いた杖をロイヤルゾンビに向け、ミカは呪文をブツブツと唱え始めた。

 キュプロは金属棒を武器代わりに、ミカに近付いて来る雑魚ゾンビ共をけん制している。



「頼むぜ、ミカ!!……っぐう!?」


『ヴォアアアッ!!』


 もう少しで魔法が発動する。

 その直前、何かの危険を察知したのかロイヤルゾンビが咆哮を上げた。


 はたから聞けば、それはただの雄叫び。

 だが同じアンデッドである俺には、奴の本当の声が聞こえていた。



『全ての配下たちよ。王を守護せよ――!!』


「(くっ、コイツ……!!)」


 先ほどよりも更に強い念動力だ。

 理性では抗えないほどの強い命令で訴えかけられ、遂に俺の制御が効かなくなった。


 俺の右手が、左足が――。


 自分の意思なんてもはや関係ない。

 手足が勝手に動き、王の元へ向かい始める。



「ちょ、ジャトレさん!?」

「駄目だ、ミカ君! いったん魔法はキャンセル!! 中止だ!!」

「そんなっ、あと少しだったのに……!!」


「クソッ! 悪ぃ二人とも……」



 こうしている間にも、地面からワラワラとゾンビが湧いてくる。際限なんて無いようだ。


 生まれたゾンビたちは次々と集まっていき、みるみるうちに王を隠してしまった。



 まるで王を護る城壁。

 それか絶対不可侵の砦だ。


 そして困ったことに……



「よりによって、ここかよ……!?」


 最後に防壁に加わったせいで、俺が居るポジションは壁の一番外側……最前列となってしまった。

 つまり、味方にとって俺はいい的である。


 このままミカの魔法を撃たれたら、真っ先に昇天するのは俺で間違いない。



「どうしましょう、キュプロさん……」

「きひひひ……さすがに彼を見殺しにはできないよねぇ~」


 無理やり引き剥がそうにも、すぐに身体が抵抗して元の場所に戻ってしまう。


 二人して困った顔になるミカとキュプロ。


 ミカが使う他の魔法も強大過ぎて俺が巻き添えになってしまう。もはや打てる手が無い。



「でもこれじゃ、埒が明かないですよね。ゾンビもどんどんと集まって来ちゃってますし……」

「これ以上、王の守りが堅くなってしまったら、ボクたちも完全に手の打ちようがなくなるよねぇ」


 たしかにちまちまと壁を削っていったところで、それ以上のスピードで修復されちまうだろう。


 ――仕方ない。

 こうなったのは俺のせいでもある。


 身を削るのは嫌だが――やるしかない。



「……ミカ、キュプロ。話がある」



 ◇


 僅か数分間の作戦会議が終わった。

 俺が思い付いた案を二人に話し、どうにか採用してもらうことになった。



「ホント、正気の沙汰さたじゃないですよね」


「ミカ君の言う通りさ。ボクでさえ、そこまではやろうとは思わなかったよ?」


「ははっ。褒め言葉として受け取っとくよ」



 二人がここまでいう酷い作戦とは。


 それはキュプロの持つ金属棒を俺に突き刺し、『威神電針いしんでんしん』で王の支配から無理やり解放されようというものだ。



「本当にいいのかい、ジャトレ君?」

「あぁ。ひと思いにやってくれ!!」


 もう俺たちに残された時間は残り少ない。

 躊躇ためらっている場合じゃないからな。



「それじゃあ、歯ぁ食い縛ろうか」

「こいっ!!――うぐっ、ぐああぁああっ!!」



 キュプロはズブブブッ、と俺の腹部に金属棒を刺し込んでいく。

 痛覚は無いものの、異物が自分の体内に入っていくというのは物凄く気持ちが悪い。



 このアイデアに大きな欠点は無い。

 ただ、俺が死に掛けるということ以外は。



「キュプ、ロ……やれっ」

「上手くいってくれることを祈ろう……『威神電針』!!」


 キュプロが技を発動する。

 バチィという音と衝撃が同時にやって来た。


 実際に喰らってみると、想像を絶するほどの強いショックだ。


 おそらく今も、呪いの効果が発動しているはず。

 宝玉の中の金は凄い勢いで減っていっているに違いない。



「(だが倒れるわけにはいかねぇんだよ……!!)」


 狙い通りだ。

 ロイヤルゾンビの支配が無くなっている。


 身体は痺れているが、これなら動く――!!



「ジャトレ君……っ!!」


 どうにか肉壁から自力でい出ることに成功した。

 抱きかかえるようにして、キュプロが俺を安全地帯へと運び出す。


 これでもう、何も遠慮することはない。

 あとは奴らの殲滅だ――。



「ミ、カぁ……い、今だ……!!」

「はい! いけっ、『救魂の息吹』!!」



 薄れゆく意識の中、最後に見えたモノ。

 それはゾンビたちを全て飲み込む、巨大な純白の嵐だった。


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